「ここ二週間で、線路が爆破されたり切断されたりする事件が続いているんだ」
そのため列車の運行もめちゃくちゃだ。レールがあちこちで分断されているため、運行は使える線路を選んで走っている状態である。
「この列車だって、中央からきているんだぞ」
その言葉に、エドワードたちは顔を見合わせた。
「中央から?すっごい遠回りじゃん」
「だからこんなに混んでるのか…」
遠回りでも、繋がっていればまだいい。そうもいかない時は、駅と駅の間を軍が手配した馬車や車で繋げたりしているのだ。
随分と大変な状況になっているらしい。
「それだけじゃない」
あちこちでテロ騒ぎまで勃発している。東方司令部の管轄内でも既に七件起きているらしい。しかも、犯人は未だ捕まらない。
捜査は市民の協力あってのものなのだが、その協力がなかなか得られない。よって情報が全く集まらない。そのため、犯人は好き勝手やっている。
「現場は混乱しているというのに、さらに上が口を出してくるしな」
「なるほど。それで今日中央に呼び出し食らったってわけか」
予想通り、しっかりしろ、という上層部からの激励ーーという名の嫌みを聞かされに中央まで赴いていたらしい。ロイは苦い顔で頷いた。
「あ、でもなんで私服なんですか?」
席の傍らに立つアルフォンスが、素朴な疑問を口にする。
「軍の上層部の人に会いに行ったんですよね。軍服じゃないなんて…」
そこまで言った時だった。
突然、ガクン、と列車が揺れた。続いて悲鳴のようなブレーキの音。
車内で悲鳴が上がり、荷物が転がった。列車は軋みながら急激にスピードを落とす。
「……?」
何が起きたのかを理解する前に、クライサの視界に黒い影が入った。
勢いよくぶれる窓枠の遥か向こう。荒野の中にポツンと立つ人影。影は小さく、列車から随分と離れているのが分かる。
軋む列車、悲鳴、乗客の荷物が転がる音。
激しくぶれる世界の中で、それはまるで、切り取られた絵のように見えた。