「まったく、誰がお父さんだ!!」
向かいの席に座るエドワードとクライサを前に、ロイは憤慨していた。
彼女らの『お父さん』発言は狙い通りになり、女性たちに既婚疑惑を持たれたロイは会話が途切れがちになってしまった。
結局、無邪気なフリをして手足に絡みつく小悪魔二人を引きずって、違う車両の空いた席に腰を下ろすことになったというわけだ。
「久々に会ったというのに、いい度胸じゃないか!」
「その久々の再会を無視しようとするからいけないんだよ」
彼らをギロリと睨んだロイを、クライサは倍以上の眼光で睨み返す。妹の怒りを真正面から受けた兄は、鋭いそれに負けすぐ目をそらした。
「ホントこの人ときたら、す〜ぐ女性に声をかけようとするからなあ…」
「今回はかけたんじゃない。かけられたんだ!お前は傍で見てただろうっ」
ロイの隣に座るハボックが、エドワードたちに同意する。だがそれに対しロイは否定の声を上げるが。
「へぇ…『今回は』ねぇ…」
更なる墓穴を掘ることになってしまった。クライサの冷たい微笑みに、ロイは青ざめる。
「違……今のは…っ」
「ところで少尉、今回は仕事でこんな辺境まで?」
「クライサ…ッ」
「うるさいよ万年色ボケ男」
氷の姫君の怒りはそう簡単にはおさまらない。絶対零度の微笑みを向けられ固まってしまったロイに、兄弟はご愁傷様と両手を合わせた。
「あー…まあ、そうだな。うまく予定の列車に乗れなくて、遠回りすることになっちまったけど」
仕事帰りの上、列車待ちで三時間。ハボックは溜め息をついた。
「なんだ、あたしたちと似たようなもんなんだね」
「オレらも予定時刻に列車が来なくて随分待たされたんだ。…どうしたんだろ、運行が乱れてるのかな」
そう言って首を傾げたエドワードを、ロイとハボックが不思議そうに見た。
「…知らないのか?」
「最近、この話題ばっかりじゃないか」
少しばかり驚いている彼らに、何か重大なニュースでもあったのかと少々焦る。彼女らが賢者の石探しで訪れた村は宿屋がなく、三人は軒下を借りながら情報を元に荒野をうろうろするという宝探し的なことをしていたのだ。
その間、世間との繋がりは一切断たれ、もちろんニュースなど知るよしもなかった。