乗り込んだ列車は、辺境を通る路線にしては珍しく混み合っていた。
この列車は大きな町を通ってきてはいないだろうし、この先も田舎を回るだけの筈だ。なのに、席に座ろうにも空席が見当たらない。
仕方なく、昇降口に通じる扉に寄りかかって立つことにした。
次の目的地までぐっすり眠るつもりだったのに、この様子では無理そうだ。空いている席を探そうにも、この分ではどの車両も混んでいるだろう。
車両の座席は全て埋まっており、通路には座れなかった人たちが立ち、仲間たちと談笑したりトランプをしたりしている。
「辺境回りの列車に、こんなに人が乗ってるのって初めて見た」
「あたしも」
列車に乗っている人々を、それとなく観察する。
田舎から田舎を走る列車には少々不釣り合いな、大きな町の匂いがする服を着用している人がほとんどだ。田舎に行くにしては、些か上等過ぎる服装である。どこかで祭典でもあったのだろうか。
なんにせよ、二週間近くの野外生活で、世間の情報がさっぱり分からない。
「どっかでラジオを聞くか、次の駅で新聞でも買うかして……」
そこで不意にエドワードは口を閉ざした。疑問に思ったアルフォンスが兄を見下ろし、クライサがどうかしたのかと問いかける。
エドワードは、僅かに首を傾げていた。
「いや、今、どっかで聞き覚えのある声が…」
耳を澄ましていた彼の耳に、今度こそ声が聞こえた。暫く聞いていなかったが、それは確かに知り合いの声である。
「誰の声?」
「誰って…。なんつーか、あの、お世話になりたくないけど、なっちゃってる人の声っぽい」
多くの人が立つ列車の中を、首を伸ばしたり屈んだりして見渡す。その眉間に刻まれた皺。どうやら探す相手は、好きではない…というより寧ろ、嫌っている人物のようだ。
「……あ」
そこで漸く、その声がクライサの耳にも届いた。だがこちらは、嫌そうというよりは少し嬉しそうだ。
「あー…なるほどね」
声の主の正体が分かって初めて、エドワードの言い回しの意味が理解出来た。確かに、彼にとっては世話にはなりたくない人物である。