「ふああぁ……」
「体に似合わずデッかい欠伸だなオイ」
「ぶん殴るよ?」
口から飛び出そうとする二度目の欠伸を噛み締めながら、クライサは駅の柱にある時計に目を向けた。
「…もう三時間も過ぎてるよ……」
第一章
彼女らの待つ列車は、本来十二時に到着する予定だった。
だが、既に時計は十五時を指している。こんなド田舎では、列車の時間も遅れるものなのだろうか。
「こんな端の村まで来たのって初めてだし…もしかしたら、この辺じゃ何時間も遅れて当たり前なのかもね」
アルフォンスは遠くを振り返る。
辺境の更にそのまた辺境、というのが相応しいような小さな小さな村。エドワードとアルフォンス、そしてクライサは、その村を後にして列車に乗ろうとしていたところだった。
エドワードたち兄弟の目的のため、こんな遠くの村まで来たわけだが、結局収穫は無し。しかも、列車は来ない。
風が吹く度に日射しの中で埃が舞い上がるちっぽけな駅には、三人以外の人影はない。
つまらなそうに手元で石ころをいじっているエドワードを眺めながら、その隣でクライサは溜め息をついた。
「…あーあ、今度こそ元の身体に戻れると思ったのに」
がっかりだ。期待が失意へと変わる度に繰り返される言葉。
だが、立ち上がったクライサの言葉に、彼の顔には笑みが浮かぶ。
「でも、『諦めない』でしょ?」
「もちろん」
少年もまた、座りっ放しだったトランクから立ち上がる。大きく伸びをし、アルフォンスにも笑みを向けた。
「絶対、賢者の石を見つけて元の身体に戻ってやるさ」
「頑張ろうね」
「ああ」
短くない旅。それを強い意志と互いの励まし合いで乗り切ってきた二人は、今回も互いの心意気を確認し合い、気持ちを切り替える。
その二人を、いつも通り微笑みで見守るのがクライサだ。
「さー、次の目的地に行くぞ!列車でぐっすり眠って、どっかで美味いもん食って元気出して行こう!」
「おー」
両手を上に突き出したエドワード、それを真似るクライサに答えるよう、遥か遠くのレール上に列車の影が現れた。