(FA後っぽい)
リゼンブールからの突然の呼び出しを受け、司令部で忙殺されている兄の許可を半ば無理やり得て列車に乗り込み、やってきましたロックベル邸。
出迎えのデンに手をべろべろ舐められながら見上げれば、二階のベランダでウィンリィがぶんぶん両腕を振って歓迎してくれた。
「いらっしゃい、クライサ」
家の中に入ればアルフォンスの笑顔が迎えてくれる。ばたばた騒がしい音を立てて、二階から下りてきたウィンリィが遠慮なしに抱きついてきた。
「クライサ、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、ウィンリィ」
背中に回した腕に力を込めて、精一杯、愛情一杯の抱擁を返す。本当の家族のように接してくれる彼女の愛は、本当に心地良くて、いつも有り難くて嬉しくなる。
5月26日。
ウィンリィに続いてアルフォンス、ピナコにも生誕を祝う言葉をかけられて、クライサは顔を綻ばせた。
リゼンブールで一緒に祝いたいからと呼び出しを受けた時は、わざわざそんな、申し訳ない、と思ったし言ったのだが、やはり直接受ける純粋な好意は嬉しいものだ。重なる仕事で当日は休みが取れそうにないと頭を下げた兄は、それでも夕食は一緒に食べようと言ってくれていたので、こうなっては少し悪いことをした気分になる。だが、送り出してくれた彼は、せっかくだから賑やかに過ごしてきなさいと微笑んでくれたから、お言葉に甘えて目一杯楽しんで帰ろうと思う。そして帰宅したら、おめでとうを貰った分だけ、たくさんたくさん“ありがとう”を言おう。
「あれ、エドは?」
リビングに通されて荷物を置いたところで、一向に姿を見せる様子のない恋人の行方を問う。いつもなら真っ先に出迎えてくれる彼が、それも今回自分を呼びつけた張本人が、家の中に入ってもなお顔を出さないとは。
まさか何事か彼の身にあったのかと、心配する間もなく三人の笑顔が苦笑に変わる。
「坊主はキッチンで格闘中」
答えた声は三人のものではなく、聞き慣れたそれにクライサは振り返る。リオ・エックスフィート。おもしろくてしかたないといったふうに顔をにやつかせた彼が、廊下からリビングに入ってきたところだった。
「アンタまだいたの」
「ご挨拶。盛大に誕生日祝ってやろうって親友につれないぜ」
「そりゃどーも。アンタ意外と重宝されてんだから、とっとと中央戻ったら?」
「リィと離れるのが心苦しくてさー」
「今すぐ裂けろ」
「裂けろ!?」
「(相変わらずだなぁ、この二人…)」
バカ話はさっさと切り上げて。
「キッチンって…エド、料理するタイプだっけ?」
クライサが訝しげに問うと、苦笑した皆が同時に首を横に振る。錬金術師を引退(?)して主夫業に目覚めたのかと若干心配したが、どうやらそういうわけではないらしい。まさかリオの言う“格闘中”が言葉通りなわけはないだろうから、エドワードはこちらの想像通り料理をしているのだろう。……なんで?首を傾げるクライサに、苦笑していた四人の顔がニヨニヨ弛む。どういうこっちゃ。
「兄さんね、クライサの誕生日のお祝いに、料理を贈るつもりなんだよ」
「え……」
「一から全部、ひとりでやるって。今までも手伝いはしてたけど、ひとりで作るのは初めてなんだよ。さっきちょっと覗いてみたけど、すごく真剣な顔して作業してた」
「……そっか」
頬が弛む。色惚けとからかわれるのは不服だが、そんな話を聞いて嬉しくならないわけがない。恋人同士となって初めての誕生日に、初めての料理をプレゼントしてくれるなんて。
「……めっちゃ焦げた匂いさえしなきゃ、最高に嬉しい誕生日プレゼントなんだけどなぁ……」
「それは……」
「ご愛嬌ってことで……」
042:初めての料理
ハッピーバースデー、クライサ・リミスク!
「で、これ何」
「…………目玉焼き」
「うん、とりあえずニワトリさんに土下座するところから始めようか」
「…………はい」
【H24/05/26】