(FA/リオ)
「何してんの?」
見上げていた空が、同じ青空色によって遮られた。太陽を押し退けて落とされた影は、しかし嫌なものではない。
「休憩」
「ああ、サボリか」
横になっていた体を起こしながら答えると、隣に腰を下ろしたクライサが心底納得したように言った。失礼な。
「来てたのか」
「うん。エドとアルが図書館に用があるって」
「そうか」
賢者の石を探して旅する兄弟と行動を共にする彼女は、暫く前にイーストシティを離れて以来、居所を掴むことが難しくなっている。こうして会ったのも随分久しぶりだ。東方で共に働いていた頃は、毎日のように顔を合わせていたというのに。
「随分忙しいみたいだね」
「ああ。ここが暇なんてこと滅多にねぇけど、最近の忙しさは異常だな」
「無理しちゃダメだよ。ま、リオに限ってそれはないと思うけど」
「それは褒めてんのか?」
「多分けなしてる」
「さいですか」
そこで漸く、先程火をつけたばかりの煙草をくわえたままだったことに気付く。しまった。かなり気が抜けてしまっているらしい。
しかし、煙草嫌いのクライサが何も言わないとは。
火を消そうと指先で挟んだ瞬間、それを制すように手が伸びてきた。同時に、隣の彼女が腰を上げる。
「じゃ、そろそろ行こうかな」
「なんだ、もうか」
「うん。だって司令部には何も用ないし」
「……え?」
鋼の兄弟が図書館に行っていると聞いた。確かに、軍のほうに用があるとは一言も言っていない。
だったら、わざわざ司令部になんて来なくても、一緒に図書館に行くなり街で暇を潰すなりすればいいのに。
「アームストロング少佐やヒューズ中佐によろしくね」
ひらひらと手を振って、クライサは振り返らずに歩いていった。その後ろ姿が見えなくなってから、苦笑する。
「……らしくねぇことしやがって」
ーー俺に顔を見せるためだけに、わざわざここまで来てくれたのか。
003:君といた時間
それに何より癒される
【H21/05/30】