(鋼/夢主ズと軍部)





新年早々お兄ちゃんが鬱陶しいです。

「……中尉。今度は何したの、この人」

紅茶を淹れてくれたホークアイ中尉に問いかけると、彼女は困ったふうに微笑んだ。
先程エドやアルと一緒に顔を出した時は何事もなかった筈なのに、兄弟を資料室に置いてあたしだけお茶を飲みに来てみれば、司令官殿は部屋の隅で体育座りしているし。何事かと思って近付いてみれば、

「触るなって言われた触るなって言われた触るなって言われた…」

と延々ブツブツ呟いているし。

……まぁ、大体は察しがつくけど。
自分のデスクに向かって絶賛仕事中の某少尉が、あたしでさえ声をかけるのを躊躇うぐらい不機嫌なオーラを醸し出しているから(っていうか、お兄ちゃんがああいう面倒くさい落ち込み方をしている時は、ほぼ例外なく彼絡みだ)。
んでお兄ちゃんの台詞からして、彼に「触るな」と言われたことは明白だ。やめればいいのに、何かしらちょっかいを出した結果、冷たくあしらわれたといった感じだろうか。

「それがね、」

苦笑いを浮かべて状況説明を始めてくれた中尉の言葉に、あたしはがっくりと肩を落とした。





「……っ!」

ふいに息を詰める気配がしてハボックがそちらを窺うと、今部屋に入ってきたばかりの少年が自身の左手をさすっていた。他の面々も同じく気付いていたようで、皆一様に彼を見ている。

「どーした、リオン」

「…………静電気」

ハボックが問えば、少年は些か憮然とした表情で答えた。それにああと返して、皆が苦笑する。金属製のドアノブに触れた時、指先に静電気が走ったようだ。
しかしリオンが若干機嫌を損ねたまま自席まで歩いてくるので、一同は苦笑を潜めて首を傾げた。誰もが認めるクールガイな彼なら、静電気ごときサラリと流して仕事に戻る筈なのに。

「リオン?」

「何だよ」

応える声もいつもより低い。明らかにご機嫌ナナメである。

「何怒ってんだ?」

「別に怒ってない」

「……お前なぁ…」

嘘つけ。若干呆れつつ、少しばかり膨らまされた頬に手を伸ばす。ちょっと摘まんでやろうか。その程度の、悪戯心というほどのものでもなかったのだが。

ーーガタバタドタンッ

「…………」

「…………」

思いっきり逃げられた。

「……リオン?」

「……………………」

伸ばされたハボックの手から逃れるように、椅子を倒すほどの勢いで立ち上がって。あまりにらしくない行動に目を瞠る一同に、居たたまれないように口を引き結び、落とした書類やペンを拾う。

「リオン」

「…………俺、」

もう一度呼ばれ、皆の視線が自分を離れないことを知って、リオンは渋々口を開いた。椅子に座り直しながらも、居心地悪そうに視線を余所へ投げている。

「…静電気起きやすいんだよ、何故か」





「ーーで、金属製のものに触ったり人に触られたりする度に静電気が起きるんでウンザリしてたとこに、調子に乗ったお兄ちゃんがふざけて触ってやろうと近付いた結果、リオンが『触るな』の一言で一蹴した…ってわけか」

説明された話を要約してみれば、中尉は静かに一度頷いた。苦笑じみた微笑みを浮かべる彼女に同情して、それから部屋の隅に踞る兄へと目を向ける。
リオンの対応は正しいと思う。怒るのは当然だ。今回は(というか大抵いつもだが)お兄ちゃんが悪い。自業自得だから慰める気もない。
…………しかし。

「…リオンって、この季節になると沸点下がるんだね」

「この間は『寒い!』ってキレてたもんな…」

あたしの呟きに、新たにくわえた煙草に火をつけながらハボック少尉が同調してくれた。
そう、寒さ嫌いのリオン少年は、特に冷え込みの強かった先日、見たことないほどお怒りになって大佐殿を足蹴にしていた。完全に八つ当たりだったけど、被害者本人以外誰も止める気になれないぐらい珍しいことだったので、その状態が暫く続いたのをよく覚えている。
そして空気が乾燥しがちなこの時期、彼の嫌がる静電気はそれこそしょっちゅう起きるのだろう、可哀想に。そしてそして、また八つ当たりの被害に遭うのは我らが大佐殿なのだろう、可哀そ……いや、お兄ちゃんだし別にいっか。

「普段怒らない人が怒ると、ほんと扱いに困るよねー」

「……だな」





037:激怒
夏は姫君、冬は少尉君




めんどくせぇ主人公たち
【H23/01/31】





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