(桜/麻倉と三馬鹿)
のしーっ。
「………おい、クライサ」
「なぁに、左之。あ、もしかして重い?」
「いや、重さはたいしたことねぇんだけどよ…」
階段の最上段に座っている左之の背中を見つけたら、いてもたってもいられなくなって、のしーっと負ぶさってみた次第です。
全体重かけてるってのに、さすが左之、潰れるどころか前屈みになる気配さえなく、平然とあたしのほうへ顔を向けやがる。
「何かあったのか?」
「なんで?」
「なんでって…お前、この間も同じことしてただろ、平助に」
「あー、平助は抱きつき心地悪かったね。なんか馬に放り出された気分だったし」
左之が言っているのは、先日、てってこ歩いている平助に後ろから抱きついてやった時のこと。平助はうろたえにうろたえ、顔真っ赤にして体を揺さぶってくるので、仕方無しに離れたのだ。何だよ、普段は女扱いなんてしてくれないくせに。
あたしが率直な感想を述べれば、未だ抱きついてる左之の向こう側、境内で木刀を手に新八と向かい合ってた平助が、なんだよそれ!と声を張り上げる。予想通りの反応にあたしは笑って、漸く左之の背中を離れ、彼の隣に腰を下ろした。
「一番居心地がいい背中は、新八のかなぁ」
「おっ、そうかぁ?」
新八が木刀下ろして照れた素振りを見せる(照れるほどのことでもないと思うけど)。稽古は中断かな。平助と二人して歩いてきて、新八は左之の、平助はあたしの隣に腰掛けた。
左之の背中もなかなかだったけど、新八のがっちりした大きな背中は結構好きだ。あたしをだいぶ子ども扱いしてくれている彼は、よくおんぶして遊んでくれるので、その背中の心地よさはよく知っている。
総司の背中も好きだけど、彼の場合は背中に負ぶさるよりもその隣を歩くほうが楽しいし、もしくは背中合わせでいるほうがいい。
他の面子は……ね。
土方さんには仕事中の背後から負ぶさってみたら、直後にグーでこめかみ殴られて感触どころじゃなかったし、イチくんは精神統一中で座ってるところを背後から近付いていったら、背中に触れる直前で居合い繰り出されて受け止めるのに必死だったし、近藤さんは抱きついてるとこなんかうっかり総司に見られた時のことが怖くて仕方ないし。
気兼ねなく抱きつける相手といったら、総司とこの三人くらいなのだ。
「なんで背中にこだわるんだよ?」
「あのねぇ平助、前から抱きついたら大問題でしょ」
「うっ……それはそうだけどさぁ」
いや、まぁ背後からでも十分おかしいとは思うけどね。新選組幹部の背中に抱きついてみたりするのなんか、あたしくらいなもんだし。
「好きなんだよ、あたし。戦う人の背中って」
「……は」
素直に理由を言えば、三人は揃って目を丸めた。
「だってかっこいいでしょ。何かしら守るもの背負って、真っ直ぐ前見てる姿って。すごく大きく、広く感じるんだよね」
って続けたら、平助と新八が照れくさそうに視線を逸らした。左之だけは、じっとあたしを見ていて、その視線の強さにあたしのほうが苦笑する。
「普通は、守られてる時にその背中の広さを感じて、ちょっぴり寂しくもなるものだけどさ。あたしは、守られてなんかいらんないから。こうして何でもない時に、“戦う”みんなの背中を楽しんでるってわけ」
「……なるほどな」
「あたしの背中も、みんなみたいにかっこよく見えるのかな」
ほら、あたしも“戦う人”だから。
ケラッと笑ってみせたら、左之があたしの頭をガシガシ撫でてきた。ちょっと痛いぐらいの力強さ。
「当たり前だろ。俺らの背中がかっこいいって言うなら、お前の背中がそれに劣るわけがねぇ」
背負ってるもんが、俺らより軽いわけがねぇんだからな。
左之の言葉に瞠目する。けど、
「だったら、すごく嬉しいな」
って笑ったら、平助と新八にも撫でくり回されて、左之も加えて三人でもみくちゃにされた。
036:背負うモノ
ぎゃーす髪がぐっちゃぐちゃ!
「……ずいぶん仲良しなんですね、四人とも」
「げっ、総司!」
「ねぇクライサちゃん、ちょっと稽古に付き合ってくれないかな?」
「(うわ、目が笑ってない…!)」
「(わー、うっかり殺されちゃいそうだー)」
【H24/10/13】