(赤星)





カドスの喉笛に棲みついた巨大な魔物、ハーミットドリルが息絶えたのを確認して、パーティー全員が同時に溜まった息を吐いた。
手強い敵の撃破に安堵するも、魔物の巣窟のただ中にいることに変わりはない。一瞬抜いた気をまた張り直し、各自行動に移る。素材の回収をする者、怪我の治療に走る者。それらを一瞥したアカは、ユーリやラピードと同じように、周囲の警戒にあたった。

激しい戦闘音につられて来たのか、集まりかけていたバットを斬り払い、ひとまず目の届く範囲に魔物がいないことを確認して剣を戻す。痺れの残る手のひらを見下ろした。
堅い甲殻に弾かれた剣。継ぎ目を狙ったりもしたけれど、前衛は皆、決定的なダメージを与えられずに苦労していた。エステル、レイヴン、特にリタの魔術があったからこそ、時間稼ぎと覚悟して自分たちは堅牢なその鎧にうちかかっていったのだ。
まったく、あんな巨体に正面から向かっていくなんて、信じられない。漏れた苦笑は、勇敢すぎる青年たちに。ああ、信じられない。

あれだけ、見殺しにしておきながら。

弾かれた剣。飛び散る肉片。血溜まり。反響する断末魔。助けてくれと血反吐混じりに吐き出された声に、応えたことは果たしてあったろうか。嘲笑は、自身に。
遭遇した回数は多くないが、少なくもない。そのたびに殺された。見殺しに、した。殺戮者は、今、ついに討たれて横たわっている。巨体を眺める銀目に感情はない。

あの子たちは、知っているだろうか。常にアカが、退路を意識して戦っていることを。
あの子たちは、背後から刺される可能性を、裏切られて見捨てられる可能性を、考えたことはあるのだろうか。

「アカ」

見下ろしていた手を握られて、思考に沈んでいたアカはハッと目を見開く。顔を上げた先で、エステルが小首を傾げていた。

「大丈夫、です?」

「ん、大丈夫だよ。少し考え事してただけさ」

「ちょっと、ぼーっとしてんじゃないわよ!まだ魔物はうようよいるんだから、気抜いてる間に襲ってきたらどうすんの!」

怒鳴るリタの向こう側で、レイヴンがにやにや笑ってる。

「もー、リタっちったら、心配なら素直にそう言えばいいのにぃ」

「なっ!」

「うん。心配かけてすまんね、リタ。気をつけるよ」

そんなんじゃないわよ、とまた怒鳴るリタの赤い顔に笑いかけてやれば、さらに赤みが増した。本当に可愛らしい性格をしている。近場にいたカロルに、八つ当たりに手を上げるのもいつものこと。慌てて駆け寄ったエステルに諭され、唇を尖らせてそっぽを向くリタ。手刀を食らった頭を抱え込み、リタに不平を呟くカロル。微笑ましいやりとりを眺める大人たちの口元も弛んでいる。
ぽんと頭を軽く叩かれて、見上げた先にあった穏やかな横顔。頭上に載ったままの手のひらを、乱暴でない手つきでそっとどける。見下ろす青年に笑みを返した。

「心配ないよ。ありがとう」

向けられた優しさは柔らかくて、こそばゆくて、吐き気がした。





034:孤独の中の神の祝福
ああ、なんて滑稽で、





【H24/04/14】





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