(赤青/ゼロス)
自室のベッドで転がっていたところ、ノックもなく開いた扉から予想通りの少女が顔を覗かせた。
「ねーねーゼロス」
「んー?」
「顔面殴られるのと顔面掴まれるのどっちがいい?」
「何その二択!?」
聞き流しがたい質問に反射的に体を起こすも、時既に遅し。ドロップ気味のキックが繰り出され、多大なダメージと共に再びベッドに沈んだ。
「おー。今のでも大して軋まないとは、さすが神子様御用達のベッド」
「……クライサちゃん、俺さま何かした…?」
「選択肢増やしてあげよっか。顔面グーで殴るか平手でひっ叩くか、掴む場合は右手がいいか左手か。あ、右利きだからって左の握力が弱いとか考えないほうがいいよ。あたしこれでも双剣士だし」
「それあんま選択肢増えてない気が…っていうか質問に答えてくんない…?」
「ケーキ食べたでしょ」
「ごめんなさい」
小腹が空いて、ちょうどテーブルの上に置いてあったケーキに手を伸ばしてしまった、のが二時間ほど前のこと。それがクライサの個人的な貰い物で、箱詰めにされたケーキの最後の一個、しかも楽しみにとっておいた大好物なイチゴのショートケーキだとセバスチャンから聞いたのはその直後。
用事を済ませて帰ってきたクライサが事実を知ったのがつい先ほどだとして、今こんな状況になっているのは当然といえば当然なのだが。
「勝手に食っちまったのは悪いと思ってるけど、一個くらいでそんな怒んなくてもいいでしょーよ。もう何個か食べたんだろ?」
「最後の一個、ってのは特別なんだよ?ものすごく楽しみにして帰ってきたのに、それがなかった時のショックと言ったら…」
「わーかったって!明日買ってきてやるから…」
「そういうもんでもないの。物自体は代わりがきいても、こういうのは気持ちの問題なの」
「気持ちねぇ……お詫びに明日、桜の綺麗なとこ連れてってやるよ。他の誰にも教えてない穴場なんだぜ」
「あたしは花より団子だ!!」
「そんな胸張って言わんでも」
姫君のご機嫌取りはなかなか難しそうだ。
ゼロスは苦笑しつつ、頬を膨らます少女の頭を宥めるように撫でてやった。
「なんでそんな怒るかねー。たかだかケーキひとつで」
「食べ物の恨みはリフィル特製クリームシチュー並みに怖いんだよ」
「(そりゃ怖ぇや)」
028:最後の…
次やったら殺劇舞荒剣ね
死刑宣告ですか
【H23/04/25】