(FA/エド)
※シャンバラ
久しぶりに会った彼は、別れたあの時より大人っぽくなっていた。
(…当たり前、か)
あれからどれくらい時間が経ったと思っているんだ。一ヶ月やそこらではない。自分がそうであるように、彼も成長していて当然なのだ。
「クライサ」
彼が姿を消した後、記憶をなくしたアルフォンスは肉体を失う前の身体で戻ってきた。人体錬成を行う前の記憶しか無いのだから、当然クライサのことは覚えていない。少し寂しかったけれど、この少年が生身の体を取り戻せたことは、それ以上に嬉しかった。
謎の地震が中央とリオールを襲ったかと思えば、今度はこの国には無い巨大な機械が空を飛ぶ。異様な光景に身を震わせる者は多数だが、クライサは違った。
アルフォンスと再会したこと、兄が北から帰還したこと、何より彼を見つけたことが、彼女の心を強くした。
数年ぶりの再会。挨拶も無く消えてしまった彼に、いくら言っても足りないくらい文句を言って、今までの心配と苦労を拳にのせて、それでもやはり、最後にはおかえりと言って笑おう。話したいことは山ほどある。一緒にやりたいこともある。きっと、この事件の後片付けは大変だろうけど、彼となら何だって頑張れる。
そう、思っていたのに。
「行っちゃうんだね」
「ああ」
二つの世界にある門を壊すため、彼は元いた世界に帰ると言った。そして、
「こっちにある門は、お前が壊してくれ」
絶対の信頼を持ってそう言われては、期待を裏切ることなんて出来ないじゃないか。
「……じゃあ、な」
「……うん」
最後の……本当に最後の挨拶の後、彼は背を向けた。弟に、かつての上司に、そして彼女に。
彼を乗せた飛行船が離れてしまう前に、アルフォンスの背を押した。行きたいのだろう、と。後のことは任せろと言えば、少年は何度も何度も頭を下げた。
「クライサ」
「うん」
「行こう」
「……うん」
兄弟を乗せて元の世界に帰っていった飛行船を見送って、兄に促されるまま地上を目指す。
ぽっかりと、穴が空いた。
(行かないで、なんて)
002:たったひとつの
その一言が言えなかった
【H21/05/18】