(2009.03.05)


「輝く御名の下…」

神経を研ぎ澄ませ、仲間たちが魔物を引き付けてくれている間に詠唱を始める。彼の周りには天使の羽が散り、幻想的と言える光がゼロスを包んだ。そこに、普段の三枚目な彼はいない。集中力を高めるために伏せられた目、ふわりと揺れた赤い長髪、落ち着いた声。

「地を這う穢れし魂に、裁きの光を−−」

べしゃっ。

今まさに術を発動せんと目を開けた瞬間、彼の真正面で空色の少女が倒れた。魔物にやられた、とかではなく、石にでも躓いて転んだかのような見事に阿呆な倒れ方だ。

「……なーにやってんのよ、クライサちゃん」

周囲に敵はおらず、仲間たちが相手をしている魔物も残り僅かになったため術を使う必要が無さそうなことを確認して、うつ伏せになったままの少女の傍らにしゃがんだ。その両手には剣が握られているし、自分が戦っていた相手を倒したので仲間の援護に向かおうとしていたらしいことはわかるのだが、何故こんなところで倒れているのか。
彼女は、戦闘中に躓いて転ぶような小さなミスをしない人だから、その原因が全くわからない。
なかなか体を起こそうとしない少女に手を伸ばすが、彼女はその手をとっても立ち上がろうとはしなかった。

「クライサちゃーん?戦闘終わったみたいなんだけどー」
「……力、抜けた…」
「はい?」

何とか体を起こし、地面に腰を下ろす形までには至ったものの、そこから立ち上がることが出来ない。顔を上げた彼女と目が合って、思いきり睨み付けられたことに首を傾げた。

「ゼロス、今後ジャッジメントは使用禁止!」




ゼロスのジャッジメント詠唱にドキドキしちゃって戦闘どころじゃない話。






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