(2009.03.05)


ピンと張った水面のイメージ。揺らめきは無い。時折落ちる水滴が跳ね、生まれた波紋が広がり、消える。ただ、その繰り返し。
どれくらいの時間が経ったのだろう。ほんの二、三分だけのような、もう一時間も経っているような。ああ、どうせならあの水滴数えときゃよかったな。

ズガン、と頭頂部に衝撃が走る。めっさ痛い。そりゃもう言葉に表せないほど。
暫し激痛に悶え苦しんだ後、いっそ見事な踵落としを食らわせてくれた張本人を、睨み付けるようにして見上げた。

「…ったいなぁ神田!」
「雑念は捨てろって言っただろうが。余計なこと考えたテメェが悪い」
「そ、れはそうだけど、もう少し手加減ってやつをさぁ…」

神田の喝に容赦というものを求めたあたしが馬鹿だったのか。
組んでいた両足を崩し、立てた膝に顎を乗せる。神田が隣に腰を下ろしたので、そのままの体勢で目だけをそちらに向けた。
いつものように長い黒髪を一つにくくった彼は、ピンと背筋を張らせて足を組み、先程までのあたしと同じ姿勢をとる。鋭い光を持った目は、今は瞼の奥だ。

「こんなの、よく続けられるよね」

精神の鍛練を目的としたこれは、座禅というらしい。
少し興味を持ったので教えてくれと頼んだのだが、あたしには向いていないようだ。一つの物事に対する集中力には自信があるが、無心の状態でじっと座ってるなんて、正直耐えられない。これを何時間も続けられる人間がいるとは。世界って広い。

「まさか五分ももたねぇとはな」
「うっそ、それしか経ってないの?自分の持久力の無さにビックリだ」

薄く開いた目がこちらを見る。合いかけた視線を、わざと逸らした。

「何を悩んでんだか知らねぇが、俺に迷惑はかけるなよ」

普段と変わらない声音、口調で、思わず苦笑した。なんだ、バレてたんだ。ほんと、変なところで鋭くて困る。

「テメェは何も考えずに暴れ回ってるほうが性に合ってんだろ」
「うーん、まぁその通りなんだけど、アンタ軽く馬鹿にしてるよね?」

立ち上がった神田が、いつもの小馬鹿にしたようなものとは違う目で見下ろしてきた。それに含まれた意図を読み取って、にやりと笑みを返す。そうだね、ぐちぐち悩むのなんてあたしらしくない。
同じように立ち上がって、投げ渡された木刀を握った。

「せっかくだ。何か賭けるか」
「え、剣ではアンタに勝てないってわかってて言ってんの?イノセンス使うぞコラ」






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