(2009.04.06)
鋼アニメ第一話に登場した氷結の錬金術師に対抗したくなった文



「氷結の錬金術師?」

空色を靡かせ、少女は少年に振り返った。差し出されたファイルを受け取り、紙面に目を落とす様はどこか億劫そうに見える。

「アイザック・マクドゥーガル?…へーぇ、イシュヴァール経験者か」
「興味無さそうだな。氷結って言ったら同系統だろ?思うところはないのか?」
「んー?」

別に、と続けてファイルを放り投げ、窓の外へ視線を向けた少女の口には笑みが浮かんでいる。少年は肩を竦めてから、床に落ちたそれを拾い上げ、同じ方向を見た。
窓の向こうに広がるのは見慣れたセントラルの街並みではなく、巨大な氷の壁と赤い光。壁はかなりの速さで横方向に広がっており、逃げ惑う市民からは絶えず悲鳴が上がっている。穏やかじゃないな、と溜め息をついた。

「で、アレを止めるのがあたしの仕事?」
「そ。大佐はもう動いてるし、アームストロング少佐も出てる。結構苦戦してるみたいだぜ」
「ったくもう……視察先に連絡入れてまで戻らせるから何かと思えば」

くだらない仕事押し付けてくれるね、あのバカ兄殿。普段通りに強気な笑みを浮かべた少女は、何気無い動作で窓を開けると再び少年に振り返る。

「じゃ、ちょっくら行ってくるよ」
「ああ。無茶して市街破壊すんなよ?」
「努力はするよ」

返すと同時に前に向き直り、悪戯な笑みを刻んだ口はそのままに、窓枠に手をかけた少女は一気に外に躍り出た。四階から飛び下りたというのに、室内に残った少年は顔色一つ変えず、仕事は終わったからとさっさと部屋を出ていってしまう。彼女が参戦したならば、現在このセントラルシティに起こっている事件も、直に解決されるだろう。ある種の絶対的な信頼である。

一方、ホテルの四階から飛び下りた少女は空中にいるまま両手のひらを合わせ、着地するとほぼ同時に地面に手をついた。階段状に空中に伸びた地面を駆け上がり、並行している氷の壁に飛び移る。
結構な速度で伸びているこれは、どうやら中央司令部に向かっているらしい。司令部を氷漬けにするつもりか。これを錬成した者らしき男の目的に思い至り、浮かべた笑みを濃くした。

「ふぅん、『氷結』の錬金術師ねぇ」

邪魔者は凍らせたり体内の水分を沸騰させたりといった方法で殺害し、街を覆うかのような大規模な錬成で司令部の凍結を狙う。他にも目的がありそうに見えるが知ったことではない。

「こんなセンスの無い奴に手こずってるようじゃまだまだなんじゃないの、お兄ちゃん?」

喧騒に満ちた中央の街。氷壁が支配するその中で、楽しげな空気を纏ったまま少女は駆け出した。滑りやすい足場は慣れたもの。軽やかに、そして疾く駆ける彼女の視界に映る、三つの影。うち二つは見覚えのあるもので、最後に男の姿を視界におさめる。直後、目が合った。

「!?何だ、貴様は!」
「お呼びじゃないんだよ、アンタ」

今すぐ舞台から蹴落としてやるよ。『氷』の名を背負う少女は、また、笑った。






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