(2009.04.11)
アニメ第一期ED後、シャンバラ前?



不意に足を止めて、窓の外に目を向ける。景色を見ているわけではない。窓の向こうに広がる青空と同じ色をした目は、何かを探すような、何かを待っているような色を含んで、ただ視線を投げている。
すれ違う人々は彼女の姿を見るなり姿勢を正すが、相手の意識がこちらに無いことに気付くと途端に表情を崩し、心配そうな顔で去っていく。彼女はそれにも気付いた様子は無い。

「リミスク中佐」

いつもの呼び名では反応を見せてくれなかったので、下官らしく階級付きで呼んでみた。振り返った少女は驚いたように目を見開き、苦笑混じりの笑みを見せた。

「ごめん、リオン。ぼーっとしてたよ」

いつもの表情だった。疲労を含んだ笑顔。先程までの、何かに焦がれたようなものは欠片も見当たらなかった。

「働き過ぎじゃないのか?少しくらい休んでもいいだろ」
「ううん、お兄ちゃんがいない間はあたしが頑張んなきゃいけないし。心強い仲間もいるし、大丈夫だよ」

屈託無く笑うクライサのそばには、鋼の兄弟も、焔の彼もいない。
生身の身体を取り戻したアルフォンスは、人体錬成を行う以前の身体と記憶を持って帰ってきた。今はリゼンブールで平和な時を過ごしていることだろう。
ロイは療養のため一時軍を離れていたが、先日階級を伍長に落とされ北方に飛ばされることが決定した。彼がいずれ戻ってくることを信じ、中佐に昇進したクライサが、部下たちを守るためにロイの後釜についたのだ。
マスタング組は恨まれっ子だ。キツい仕事を回されるのは少なくない。そのほとんどを請け負っているのが、このクライサだ。

「……ま、姫がそう言うなら俺は止めないよ。少しでも肩が軽くなるように支えてやるだけさ」
「ありがと。……それに、さ」

どんな時も、彼女は弱音を吐かなかった。ただ前を見て、背筋を伸ばし、時には笑みさえ浮かべて。いつも変わらない、凛とした姿に安堵する反面、先程のような表情をしている時は酷く胸が痛んだ。

「こんなとこで休んでたら、あいつに呆れられちゃうから」

また、空色が窓の向こうを見る。リオンはその口元の笑みから目を逸らした。

消えた弟を取り戻すため己を代価にしようとした彼は帰って来なかった。それを少女は、今でも捜しに行こうとしない。何故、なんて聞く必要も無かった。

「どこで油売ってんだろうね」
「本当にな」

短い相槌しか返せなかった。
クライサはふと腕を持ち上げ、左耳にしたピアスに指先で触れる。いつからか、それが彼女の癖になっていた。


ここに、あなたがいた証
きっとまた、いつかの日に





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