目の前に置かれた器からは絶えず湯気が上がり、たっぷり入ったクリームシチューに喉を鳴らす。視線を上げて向かいの人物を見れば、彼女は小さく首を傾げた。

「食べないの?お腹すいてるんでしょ」

外したエプロンを椅子の背もたれに掛けながら言うクライサに、エドワードとアルフォンスは顔を見合わせた。
冷たい雨の中、ロイに拾われてこの家に来て、半ば無理矢理風呂に押し込まれて、借り物の服に温まった身を包んで、そのまま食卓に連れられて。流されるままここまで来たが…

「い、いいんですか?」
「何が」
「だって、オレたちが来た時、あんた嫌そうにしてたし…」
「嫌そう?」

そうだった?とクライサが隣の席に目を向ける。そこに座っていたリオンが首を傾げた。

「君が仁王立ちで私を睨み付けていたからだろう」
「あー、それか」

ロイの助け船に、クライサが納得したように手を打つ。次いで兄弟に目を向け、にこりと笑った。

「あれは人様の子を勝手に連れてきた父さんに対するもの。アンタたちを歓迎しないつもりは無かったよ」
「…え」
「ほら、そんな話は後々。ご飯冷めちゃうよ」

いただきますと手を合わせ、箸やスプーンに手を伸ばす。そんな彼女らを眺めていた兄弟は、また顔を見合わせてから苦笑した。



新しい家族はこんな人たち



母を亡くしたのが五年前。父はそれより前に行方知れずになった。兄弟二人だけ残されたが、幼馴染みの家族が面倒を見てくれたから生きるのに苦しいということは無かった。
それが変わったのは去年の春。母の遠縁の親戚が兄弟を引き取ってくれることになり、幼馴染みたちに別れを告げた。連れて来られたのは見知らぬ土地。待っていたのは辛く苦しい毎日だった。
新たな両親となるべき夫婦に、兄弟に対する愛情は無かった。繰り返される暴力に耐えきれなくなったエドワードは、雨の中、アルフォンスを連れて逃げ出した。

「ふーん……」

温かいココアの入ったマグカップを両手で持ち、おそるおそるといった風に視線を上げた。正面の席に座っている少女は腕を組んだ体勢のまま、にやりと笑って隣を見る。彼女の視線の先−−リオンは肩を竦めて少女の向こうを見た。彼と目を合わせたロイが苦笑しながら頷く。

「エド、アル。その親戚の家ってわかる?名前だけでもいいや」
「な、名前なら…わかるけど」
「どうするんですか?」
「君たちを引き取るには色々手続きが必要になるからな。近いうちに一度その親戚とやらに会いに行こうと思っているんだよ」
「そ。手続きとか、色々、ね」
「色々って?」
「色々」

にこーっと笑った顔を向けられて、子ども心にこれ以上は聞いてはいけないのだと悟った。







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