(赤星/青年とかおっさんとか)
じ。
視線は逸らされず、ただ一点へと向けられている。
よく飽きないもんだ。その感想は視線の送り主である女に向けられたもので、視線を受けていることを知りながら目を合わせようともしない青年には呆れに似た溜め息を吐き出した。
「……アカ。さっきから、なんで青年のこと見つめてんの」
口を開いたのは、我関せずで木を背もたれに座るユーリでも、それを少し距離をあけて見つめるアカでもなく、そんな様子を眺めていたレイヴンだった。
これが恋する乙女ならば、微笑ましいの一言で済まされるのだが、アカに限ってそれはない。しかも、レイヴンや他のメンバーがいる前でこれだけ堂々と視線を向けているということは、その理由もろくなものではないのだろう。
「いや、美人だなーって」
「……」
「ははは。そんなに見つめられると穴あいちまうぜ」
「そりゃ勿体無い。せっかくの別嬪が」
……結論。単に暇だっただけなのだ、アカは。
本音ではあるが特に意味のないだろう言葉にユーリが笑って返せば、アカも同じような表情で言葉を返す。意味のない会話で暇を潰そうと思ったのだろう。同じくやることのないレイヴンも乗ることにした。
「アカは青年みたいなタイプがお好み?」
「いや、単に眼福だなーって。おっさん見つめてもいいことないだろう」
「そりゃそうだ」
「ちょっ、二人とも酷い!こんないい男つかまえ、」
「その点美人はいいね。画になるから」
「だろ?見物料とれっかね」
「とれんじゃない?うちは払わんが」
「そりゃ残念」
「…っていうか、青年ってそういう見方されんのわりと平気なのね。嫌がると思ってたけど」
「慣れた」
「……あそ」
この青年たちとのこういった会話は嫌いではない。お互い相手の返答が大体読めているからか、言葉に詰まることもそうそうなく、テンポの良い言葉の応酬が、むしろ好きと言えるかもしれなかった。
「…なにバカっぽい会話してんのよ」
「お、本の世界からご帰還だね、天才魔導少女」
「混ざるか?」
「混ざんないわよ。…で、休憩はまだ終わらないの?」
分厚い本を閉じたリタは、些か不機嫌そうな顔でこちらを睨み、次に離れた場所でカバンの中身を広げているカロルを見た。その傍らにはエステルの姿もある。
「まだみたいよー。なんか少年たちのほう、準備整ってないみたいだし」
「なんか工具広げてたっぽいし、大方コンパスでも壊れたんじゃないかい?」
「……ユーリィィィィ!!」
「正解っぽいぜ、アカ」
「どどどどうしようコンパスが動かなくて森が抜けられなくてボボボク直せなくててて」
「とりあえず落ち着け」
「で、どう壊れたってエステル?」
「それが、どう考えても北じゃないほうを指したまま動かなくなってしまったんです。どうしましょう…これでは森を抜けられません…」
「すぐ抜けられる森だった筈なのに…もう日も暮れてきちゃったよ。でも方角がわかんなきゃどうしようもないよね…」
「……」
「……」
「え、なにみんな?どうしたの?」
「……あんた、バカでしょ」
「な、なんだよリタ!なんでちょっと憐れそうに見るの!」
「…少年。太陽はどの方角に沈むの?」
「え?」
027:動かないコンパス
愉快な旅路です
【H22/04/27】