予報外れのどしゃ降りの中、傘も持たずに家へと駆ける。立ち止まってなどいられない。頭から足の先まで濡れ鼠になった状態では、雨の冷たさなんてとうの昔に感じなくなってしまった。
真っ黒な雨雲のせいで夜闇は色を増し、街灯の頼りない明かりが足元を辛うじて照らしている。家に着くまであと10分。もうひと頑張りだと気合いを入れ直したその時、雨に覆われるばかりだった視界に異色のものが入った。

「……あ」

狭い裏通り、民家の外壁に背を預けて座り込んでいるのは二人の幼い少年だった。兄弟だろうか。冷たい雨の中、震える身を寄せ合っている。
どしゃ降りの雨、申し訳程度の明かりをともす街灯の下、人目につきそうもない場所。家出少年とも違う、明らかにわけありであろう彼ら。なのに眩い程に輝く、少年たちの金色の眼。それを目にした自分は、知らぬ間に足を止めていた。

「−−で、気に入ったから拾ってきたって?」

玄関に立つびしょ濡れの男を前にして、クライサは仁王立ちのまま溜め息をつく。

「ったく、犬猫じゃないんだから……下手したら犯罪もんだよ?」

わかってんの?と睨むような視線を向ければ、わかっているよと苦笑が返ってくる。ロイと同じく濡れ鼠の少年たちは、彼の後ろに身を隠すようにしながら、恐る恐るといった様子でクライサを見上げている。二組の金眼がこちらを見つめてくるのに気付いて、少女はふっと笑みを見せた。

「名前は?」
「「え」」

幼い少年たちは、突然の質問に大きな目を瞬かせた。もう一度クライサが「名前」と言うと、おずおずと口を開く。兄のほうはエドワード、弟はアルフォンスと言った。

「じゃあエドとアルね。父さん、まずはこの子らと一緒にお風呂入っちゃってよ。そのままじゃ風邪引く」
「ああ…このまま上がって大丈夫かい?」
「ん、ちゃんと拭いとくから構わないよ」

戸惑った様子の少年たちがロイに連れられていくのを見送って、やれやれとまた溜め息をつく。と、事の流れを見守っていたリオンが廊下の先から歩いてきた。

「じゃ、ちょっと隣行ってくるわ」
「え?…あーそっか、エドとアルの服ね」
「ユーリ兄に言えばレンの服貸してくれるだろ。行ってくる」
「ん、行ってらっしゃい」
「…クライサ」
「うん?」
「弟が出来てよかったな」
「……そだね」


家族が増えました





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