(2009.10.31)
甘め


「トリックオアトリート」

思い思いの仮装に身を包んだ年少組三人(果たしてエステルを年少組と呼んでいいのかは謎だが)の掛け声に応え、用意しておいた菓子をそれぞれに渡し終えたのが五分ほど前のこと。嬉しそうに笑って部屋に戻っていった三人を見送った後、つい先程訪ねてきたのは意外にもあのクリティア美女だった。そういえばまだ十代だった彼女にも先の子どもたちと同じ台詞を言われ、苦笑しつつ残っていた菓子を手渡した。しかしまさか『真実の守護者』をつけて現れるとは。あれは仮装とは少し違う気がするのだが……まあ、他三人も似たようなものだったしあまりツッコむ気は無いが。
出窓の脇に飾られた、カボチャに顔がついたような置物を眺めていると、不意に部屋の外に人の気配を感じた。腰掛けていたベッドから立ち上がり、そしてまた新たな訪問者によって叩かれた扉を開ける。菓子か悪戯か。黒の青年のにこやかな笑顔を見上げて、アカは珍しくもしっかり五秒間固まった。

「おい?」
「……君ねぇ…」

我に返って盛大に嘆息する。我らがリーダーである青年は、アタッチメントである眼鏡(ハーフフレーム)の向こうに見える目を瞬かせた。どうでもいいが、眼鏡は仮装に入るのだろうか。まぁ『アドリブ大魔王』なんかで来られるよりはずっといいが。

「21にもなって、ガキどもと同じような行動とるのはどうかと思うわ」
「いーだろ別に。ガキの心を持ったまま育っちまっただけだよ」
「……ま、悪かないけどさ」
「で?」

で、と言われましても。機嫌良さげにこちらを見下ろしてくるユーリには申し訳ないが、用意していたお菓子は先にジュディスに渡したもので最後だった。彼とは逆にこちらは甘いものが大の苦手というか食べたらまずいことになるので、自分用に買っておくことも作っておくことも皆無であり、当然今の手持ちにはない。新たに買ってくるのも面倒だ。

「なんだ。お菓子無ぇのか」
「君が来るなんて思わなかったからね。レイヴンにクレープでも作ってもらえばいいっしょー?」
「そうだな……んじゃ」

もう用は無いだろうと言わんばかりに追い払うように手を振るアカは、突然押し付けるようにして眼鏡をかけさせられたことで驚いて顔を上げた。それに合わせるように顎に添えられた手。目の前にある紫暗の双眸を、レンズ越しに見た。
その一瞬後に離れていったユーリは、唇をぺろりと舐めてニヤリと笑う。その様を見てアカは漸く、止めていた息を吐き出した。がっくりと肩を落とし、俯いた顔はなかなか上げられない。

「今回はこれで我慢するか」
「……わかった。次からは君の分も用意するって肝に命じとくわ」

ああまったく、こんなに面倒なやつははじめてだ。






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