(2011.04.11)


昨日図書館で見つけた本が思いの外面白くて、ついつい遅くまで読みふけってしまった。失敗したなぁ。今日は朝から退屈な授業だってのに、こんな調子じゃ絶対寝る。いっそサボろうかな。なんて考えつつ、くあぁ、と欠伸をしながら玄関ロビーに出て、外に繋がる扉に手を伸ばしたところ、

「はい、どうぞ。寝ぼけ眼のお姫様」

あたしのものより先に伸びた手が扉を開き、聞き慣れた声が頭上から降ってくる。

「…………」

見上げる。やはり見慣れた顔が、ニコニコしながらそこにある。

「どうぞ?」
「……どうも」

とりあえず、その場で立ち止まっては他の生徒たちの邪魔になると、彼が促すままにあたしは寮を出た。庭を進み、学校を目指して歩くあたしの隣を、ごく自然に長身の男は陣取っている。歩きながら、また見上げる。

「何かな?あんまり見つめられると照れちゃうんだけど」
「…………」
「眉間に皺。せっかく可愛い顔してるんだから、クライサちゃんは笑ってよ」

皺を伸ばすようにして眉間を辿る指に前触れなく噛みつくが、それを見越したように手はひらりと避ける。表情は相変わらず、にこやかな笑顔。まったく憎らしいことだ。

「アンタに笑ってやってもあたしに得ないじゃん」
「そうかな?俺が喜ぶよ」
「心にもないこと言わないでよ」
「本当だよ?俺は好きだしね、君の笑顔」
「ああそうかい。あたしはアンタの顔見ると吐き気がするけど」
「酷いなぁ。泣いちゃいそうだよ」
「勝手に泣いてれば。あたしの視界の外で」
「本当に君、俺に対して冷たいよね」

苦笑を浮かべて肩を竦め、男はわざとらしく溜め息を吐く。

「そんなに俺のこと嫌い?」
「今更聞くの?」

そちらを一切見ずに返せば、彼はまた肩を竦めた気配がした。

「傷付くなぁ。俺はこんなに君のことが好きなのに」
「アンタがご執心な子は別にいるでしょうが。暇潰しで声かけられたところで、あたしはアンタのご期待にはそえないよ」
「そうかな?」
「そうでしょ?」

視線を合わせてみる。一瞬の間を置いてから、先に視線を外したのは彼のほうだった。

「本当に手強いお姫様だなぁ」

諦めたように、それでもどこか楽しげな様子で言いながら、彼はあたしに合わせていた歩幅を大きくした。どんどん先に行く背中を追うことはしなかったけど、ふと口を開いてその名を呼ぶ。

「アルバロ」

前を行く長身は足を止めず、肩越しにこちらを見た。

「あの子泣かしたら、怒るから」
「……いやだな、俺がそんなことするように見える?」
「見えないって言ってほしいの?」
「そうかもしれないね。誰も言ってくれないから」
「そりゃそうだ」

ひらひらと手を振りながら歩いていく背を眺めながら、あたしは溜め息を吐く。朝から余計な体力を消費した気がする。やっぱり朝一の授業はサボることにしよう。

「……やっぱりアイツ、総司には似てないな」

出会った当初に感じた勘違いを、あたしは改めて否定した。







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