(FA/エド)
『生きるってどういうこと?』
そんな質問をされた時、人は様々な答えを出すだろう。多種多様、無数の答えがその問いにはある筈だ。
だが、オレは断言出来る。
旅の途中、とある街にて。消耗品の買い出しを終えて宿に戻り、一つしかとれなかった部屋の前に立つ。
弟はこの街の図書館へ向かうと言って先程別れたため、今部屋にいるのはクライサだけだろう。鍵のかかっていないドアノブを回す。そして開かれた扉の先を見て、エドワードは固まった。
「あ、エドおかえ…ってあれ?何、どうしたの?」
そして二秒間固まった後、勢いよくドアを閉めた。響いた音にそちらを向いたクライサが首を傾げる。なんで閉めた?扉に歩み寄り、ドアノブに手を伸ばす。けれどそれを回すことはかなわなかった。向こうから押さえられているらしい。
「エドー?」
「ばっ!おまっ!なんて格好してんだよ!!」
扉を挟んですぐそばにいるだろう少女に、顔を真っ赤にしてドアノブを両手で握るエドワードが怒鳴り声を上げる。宿側としては普通に迷惑だが、彼にはそんなことを考えている余裕はなさそうだ。
「かっこ?」
エドワードの言葉にまた首を傾げ、クライサは自身の体を見下ろしてみる。
「別に普通だけど?」
「どこが普通か!!」
説明すると、今のクライサはエドワードの黒いジャケットを羽織っているだけなのだ。下はいつものハーフパンツは履いておらず、下着のみ。エドワードのジャケットが彼女には大きいためか、太もも近くまで隠しており所謂『彼シャツ』状態になっている。
「だっだだっだいたいなんでそんな格好してんだよ!!」
「どもるなよ。いやね、シャワー浴びてたんだけど、替えの服が見当たらなくてさ。どこ置いたかなーって」
「だからってなんでオレの服を着る!!」
「あったから」
ああもう、こんなことならインナーとコートだけじゃなくジャケットも着て出掛けるんだった。…いや、そうすると今よりもっとヤバい光景になっていたか。ここに大佐いなくてよかった…そんなことをぶつぶつと呟いていると、またドアノブに力が込もったので慌てて押さえにかかる。こんな至近距離であんなの見たら耐えられる自信がない。
「入ってくればいいじゃん」
「断る!」
「……んじゃ、もう少し待っててよ。今探すから」
そう言って部屋の奥へ向かったのを気配で察して、エドワードは深々と溜め息をついた。そして扉に背を預けてずりずりと座り込む。
こんなことがわりと頻繁にあるから、彼女と同じ部屋になるのは嫌なのだ。…まあ、別々の部屋になってもある時はあるのだが。
(…オレ、男として見られてないのかな…)
頑張れオレ。
026:生きると云うコト
それは耐えること
【H22/04/23】