(2014.02.14)


「うわ、ビックリした。リヴァイってチョコ食うんだな」

ついそんなことを口走ると、彼は案の定不機嫌そうに顔を歪める(更に凶悪な目つきになった)。なら驚いた顔くらいしろ、と人のこと言えないだろうとツッコミたくなる言動をしつつ手元に目を落とすので、俺もそちらに視線を向けた。
調理場の中心に位置するテーブルには銀のトレイが置かれ、その上にトリュフ状のチョコレートが数個並べられている。ひとつ分のスペースが不自然に空いているのは、つい今しがたリヴァイが食べたからだ。ちょうど調理場の前を通りかかった俺がそれを目撃したという次第である。

「まさかお前が菓子作りなんてするとは思わなかったよ」
「俺じゃねぇよ。置いてあった」
「はぁ?」

リヴァイが言うには、彼が来た時には調理場は無人で、テーブルの上にチョコだけが置いてあったのだそうだ。おそらくチョコを作った人間は単に席を外しているだけだろう。出来上がってそう時間が経っていないように見える。
しかし、潔癖な彼が、誰が作ったかもわからないような、その辺に置きっぱなしにされたものを口にするとは。甘いものを進んで食べることより、そっちのほうが意外だ。
と思ってる間に、リヴァイはまたひとつトリュフチョコをつまみ上げて口に放り込んだ。よほど美味そうに見え、実際美味かったのだろう。まだその場を離れる様子はなく、もうひとつくらい食べようとしているのかもしれない。

……作ったやつに予想がついた。ちょっと考えたらわかることだ。今日のバレンタインという行事を知っており、こんなトンデモな世界で材料を集めてきて菓子作りに励みそうなやつといえば、あの暴れ馬くらいしかいない。

「あーーーーーーーっっっ!!!!」

おいでなすった。
俺の背後から現れた姫は、三個目のチョコをつまんだリヴァイを指差して悲鳴じみた声を上げる。

「何勝手に食べてんだこのクソ兵長!!」

そして見事なスタートダッシュを決め、鮮やかすぎるドロップキック(姫の得意技だ。多分オリンピックの種目にドロップキックがあったら姫は間違いなく金メダルを獲る)を繰り出す。
だが、お約束のようにその足首は片方をリヴァイの右手によって捕らえられ、遠心力を利用した凄まじい勢いで窓の外へと投げられた。立体機動装置をフル活用したリヴァイがその後を追い、空中で追撃を受けた姫は地面に沈む。とりあえず俺も彼らを追って屋外に出ることにした。

投げ出されたのが一階であるし、投げられた当人が姫なので心配は欠片もしていない。案の定俺が追いついた時には、リヴァイにマウントポジションをとられた姫は、両頬を右手で掴まれた不細工な顔でブーブーと元気に喚いていた。

「……ッいったいよ馬鹿リヴァイ!ひとの顔潰す気か!!」
「うるせぇなクソガキ……そんな力入れてないだろうが」
「人類最強野郎の感覚でもの言うんじゃないよ!!ちっこいくせにミカサみたいな怪力しよってからに!ちっこいくせに!!」
「ほう、いい度胸だ」
「いたたたた!!ごめんなさいすいませんアイアンクロウやめてください兵長様!!」

学習しないと言うか……姫はいつになっても“余計な一言”をやめられないらしい。リヴァイの躾という名の暴力にも一瞬しか効果は無く、隙あらば彼にちょっかいを仕掛けるのだから姫も大したものだ。
何だかんだ言っても仲良くやってるんだな、などと思いつつ視線を巡らせれば、金髪の准将殿がハンジと共に人類最強と暴れ馬のやりとりを眺めていた。ふとこちらを見るので目が合ってしまい、ニコリと微笑まれてつい眉を顰めてしまう。決して嫌いでも苦手でもない相手なのだが、本人に害がなければ結構な状況でも楽しんで見守ることの多い人なので、そういったところはタチが悪いと思う。

いい加減、場の収拾をつけねばと深い溜め息を吐いた俺は、立ち上がったリヴァイによって足蹴にされている少女を呼んだ。

「姫、どうせリヴァイに一矢報いようとしたって簡単にはいかないんだし、ひとまず作業に戻ったらどうだ?レイに渡すためのチョコ作ってたんだろ」
「うぅ……でもリオン、あたしやっぱり悔しいよ。せっかくレイへの感謝と愛情を込めて作ったチョコを、エレンやハンジやリオンならともかく、リヴァイのクソ野郎に食べられたんだもん……ブリッジで階段往復くらいさせないと気が済まないよ」
「やめろ。絶対リヴァイはやらないが、もしやったら目撃者にとって永遠のトラウマになる。ほら、リヴァイ班のみんなが想像して号泣してるだろ」
「あっ、その横できょとんとしてるレイ可愛い!」
「お前本当に我が道行く奴だよな」
「……お前も大変だな、リオンよ」
「……まぁな」

まさかリヴァイに同情されるとは。ちょっと悲しくなって目頭を押さえた。

「ははは、リオンは気苦労の多いタイプだからな」
「あんたのせいでもあるんだからな、准将殿」

とりあえず早く帰りたくなったので、姫や准将たちで巨人殲滅してくれないかなと本気で思った。






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