(2012.06.20)


「っきゃー!すごい風!すごい音!ねぇ今揺れたよっ家揺れたっ!!」
「うん、すごい風だね」
「雨もすごいの!ほら、下の駐車場水溜まりだらけ!風吹くと波打つんだよ、ほらほら!」
「うん、すごい雨だね」
「あっ、また光った!うわ、鳴った!雷だいぶ近付いてきたねーっ」
「だいぶテンション高いねぇ、姫っ子」

テーブルと窓の前を何往復もしては、風音雨音雷鳴に負けず劣らず騒がしくはしゃぐクライサの様子に、アカは微笑ましくツッコんだ。
台風が来る、と聞いて準備を始めた頃から、すでに遠足前日の子どものような落ち着きの無さを見せていたが、今のはしゃぎっぷりも相当なものだ。
アカの向かいに腰掛けて、テーブルに置かれた懐中電灯、ろうそく、マッチに確かめるように手を触れ、また立ち上がって窓の前へと歩いていき、カーテンをそろりと開けて外を窺う。

「台風なんかは楽しんじゃうタイプなんだね」
「んー、そうだね。被害も出るし、お気楽に楽しがっちゃいけないんだけど、なんかワクワクするんだ」
「君自身も台風みたいなもんだし、仲間意識でも出んじゃないかい?」
「え、何それどういうこと?」

若干目つきを変えて視線を送ってくるクライサを無視して、テレビのチャンネルを変える。今の時間のニュース番組はどこも台風情報で持ちきりだ。帰宅ラッシュで人の溢れる駅構内、土砂降りと強風でろくに傘も差せないビル街、高波で立ち入り禁止になった海岸、わざわざそんなところまで行くことないだろうに、と冷めた気持ちでリポーターたちを眺める。
ご苦労なことだ。一つ溜め息を吐いてボタンを押せば、コロコロとした子犬たちと人気女優が戯れる何とも平和な映像に変わった。台風による各地の様子を見ていたかったらしいクライサも、変わったチャンネルの先がそんな可愛らしいものだったので、ひとまずは文句を飲み込んで画面を眺めている。

「……で、暑くないの、理苑くん?」

暴風雨だと散々言われていたし、現状この様子なのだから窓を開ける気はさらさら無い。エアコンも、まだつけるのは早いと沈黙を保っているから、室内はかなり蒸している。お情け程度に扇風機が首を振っているが、そんな中で頭から毛布を被っていれば、そりゃ暑くてたまらんだろう。
アカが視線を向けた部屋の隅で、理苑はのそのそと毛布から顔を出した。いつもリアクションの薄い無に近い表情が、さらにテンションを落としてこちらを見る。で、また毛布の中に戻っていった。

「ほんと意外だよね、リオンが雷苦手なんて」
「ま、確かに、理苑くんならキャーキャー騒ぐ周りを冷静に眺めてるタイプだわな」
「実際はアカがそのタイプだね」
「姫っ子は騒ぐタイプだね、意味合いは違うが」

らしくない少年の様子に苦笑すれば、逆にクライサはからかうような笑みを浮かべる。理苑が昔から雷が苦手だ、ということは以前に本人から聞いていたから今更驚くことはないが、それでも意外は意外だ。小さな子どものように泣き喚きこそしないが、雷光と雷鳴が室内に届くたびに毛布の塊がビクリと跳ねる様子を見ていると、少しばかり可哀想に思えてくる。ふと顔を上げると、そばに立っていたクライサが、アカの気持ちを察してか小首を傾げて微笑んだ。それからパタパタと理苑の元へ駆け寄ると、フローリングに直接腰を下ろし、彼のくるまる毛布の端を持ち上げてその中へと身を滑らせる。突然右隣に寄り添うように入り込んできた少女に、理苑は目を瞬いた。

「姫?」
「真ん中のお兄ちゃんは怖がりみたいだから、嵐が行っちゃうまでしょうがないからそばにいてあげるよ」
「……真ん中のお兄ちゃんってなんだよ」
「はは、怖がりってとこは否定しないのかい」
「雷に怯えてるんじゃ説得力ないだろ」
「ほらほら、アカお姉ちゃんも」

楽しげな笑みで手招かれ、肩を竦めたアカが重い腰を上げる。ついでに椅子の上からクッションを取って放り投げれば、クライサが喜んで受け取った。それから彼女の反対側、理苑の左隣に腰を下ろして、クライサと同じようにピタリとくっついてやる。三人、この暑い中毛布にくるまって何をしているんだか。苦笑は胸の内に留める。

「まったく、しょうがないね。末っ子のおねだりは断れないか」
「……こんな三兄弟ごめんだよ」
「おや、言うねぇ二番目」
「二番目言うな」
「あ、光った」
「!!」
「……ほら、今日は大人しく甘やかされな、弟くん」
「そうそう、めいっぱい甘やかしちゃうから覚悟してね、お兄ちゃん」
「…………」

両サイドから肩に寄りかかられ、理苑は少しばかり複雑な面持ちで溜め息を吐いた。








index




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -