(鋼/マスタング組)
「桜見に行きたい」
「え、何いきなり」
司令室に入って早々、目の合った少年軍人にそう言われた。
リオンはぐったりした様子で机に頬杖をついており、目の下にはクマをこさえている。その理由は机の上いっぱいに積まれた書類を見れば明らかで、更に言えば他の面々やクライサ自身の机上も同じ状態なので、特に言うことはない。せいぜい上司への文句ぐらいだ。
そんなリオンの突然の発言に目を丸くしたが、同じように首を傾げたハボックがクライサのほうを見ると、ああと納得したような声を上げる。ブレダやフュリーもそれに続き、少女の頭を指差した。
「少佐、それ」
「何?」
「頭。右のほう」
「あたまー?……あ、コレ?」
そして漸く、そもそもの原因を発見した。クライサが自身の頭に触れ探り、見つけたのは髪に絡んだ花びらだった。
薄桃色のそれは一片しかなく、とても小さなものだったが、確かに桜の花びらだ。見ればわかる。……見ればわかるが、人が入室した瞬間にそれを見抜いたリオンには、何か尊敬とはまた違うものを感じた。よくわからんが。
「いつから乗ってたんだろ…川沿い走った時かなぁ、あそこ桜の木結構あるし」
「走ったって…川のほうまで何しに行ってたんだよ。外回りでそこまで行くか?」
「や、大通り歩いてたらひったくりに遭遇しちゃって。この犯人が足速くてさ、追っかけてたらそこまで行っちゃった」
「捕まえたんですか?」
「当ったり前でしょー。向こうのスタミナが切れ始めたところで飛び蹴りかましてやったよ」
「(可哀想に…)」
「(お姫に見つかるなんてな…)」
「(不運な犯人ですな…)」
「(御愁傷様です)」
なんて話をしている間に、リオンのぐったり具合が増していた。今にも書類の山を崩してその中にダイブしそうな様子に、クライサが苦笑する。
そういえば彼は、先日の事件の事後処理を一手に引き受け……いや、押し付けられていたのだった。ストレスが溜まりに溜まっているのだろう。八つ当たりをされるのも面倒くさい。となれば。
「よし、じゃあみんなでお花見に行こう!」
「は?」
「みんなって?」
「大佐と中尉とみんなで。あ、確か資料室にエドとアルもいたね。さっき大通りでリオ見たし、あいつも誘おうか」
「簡単に言うけどな、大佐はともかく中尉は許してくれないだろ」
「ここらで発散しないと満足に仕事出来ませんって言えば納得してくれるよ。事実だし」
「今日締め切りの書類まだたくさんあるんですけど…」
「大丈夫。中央には、司令部が爆発して書類も吹き飛びましたって連絡しとくから」
「……じゃ、いっか」
「良くねぇよ!!」
「仕事してくれツッコミ番長!!」
025:カケラ
氷の姫君は制御不能
【H22/04/09】