(2013.10.20)



突然背後から抱きつかれたゼロスは、些か驚きながらも、腰に巻きついた腕に手を重ねる。首だけで振り返れば、背中にぴったりと張り付いた少女の頭が見えた。

「どーしたのよ、クライサちゃん」

ゼロスは教会の祭事のため、一日のほとんどの時間を聖堂で過ごすことが、ここ数日続いていた。朝早くに屋敷を出て、帰宅するのは夜遅く。少しの会話程度しか出来ないでいたクライサは、その間、例のゲームに勤しんでいるようだった(二周目やるんだ!と意気込んでいた)。

相変わらず深夜に帰宅して、主の帰りを待っていたセバスチャンに、お前も休めと声をかけてから、少女の自室へと足を向ける。読書中のクライサが顔を上げたのに微笑んで、帰宅の挨拶だけして部屋を出ると、追いかけてきた少女に抱きつかれたのだ。
まるで縋るようなその仕草に、ゼロスは困惑した。どうした、と問うても答えはなく、しがみつく腕の力が微かに増すばかり。初めて出くわす状況の打開策がわからず、少女の腕をただポンポンと叩いていると、やがて小さな声が聞こえてきた。

「…………ゲームだって、わかってる」
「え?」
「あくまで、ゲームだ。現実じゃない。現実になんか、なりっこない」

首を振る仕草が背中越しに伝わる。呟きの意味がわからないゼロスは更に困惑した。
“ゲームだ。現実じゃない”と彼女は言った。……それはつまり、例のゲームをプレイしている最中に、何か嫌なものを見たということだろうか。
ちょうど腕が解かれたので体ごと振り返り、少女の手をとった。慰めてやるべきだろう、と口を開きかけたところで、クライサが真っ直ぐゼロスの顔を見上げた。

「現実になんか、あたしが、絶対させない。アンタはここにいるんだよ」
「……はい?」
「ロイドは絶対アンタを信じるし、何度繰り返したって、あたしがアンタの手をとるから」
「えーと……?」
「勝手なこと、させないから!」

今度は正面から抱きつかれる。相変わらずわけがわからないが、役得?なんて心の中で呟いて、ゼロスはとりあえず小柄な体を腕の中に収めた。






ゼロスの羽は、夕焼けのような鮮やかであたたかい橙色だ。髪の紅と相まって、すごく綺麗だと思う。あたしは、すごく好きだ。

『派手にやろうや』

……だけど、あの瞬間だけは、とても嫌いだと思った。

ただただ綺麗だったその色にあたたかみはなく、彼を連れ去ってしまうような、終焉に向かう色に見えた。



「勝手なこと、させないから!」

――終わらせやしない。

あれはゲームだ。現実になんて、なるわけがない。させてやるものか。
あたしが選ぶのは、いつだって彼なんだから。









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