(2013.10.12)



「うあぁぁぁコレットォォォォ!!!!」

おそらく本人を抱き締めてやりたいところなんだろうが、それにはロイドと旅に出たコレットちゃんの所在を探るところから始めねばならない。もちろんそんな行動に出るわけもなく、クライサちゃんは手近にあったクッションを、あの金髪の少女のかわりと言わんばかりに力の限り抱き締めていた。あーあ、しわくちゃ。そんなもんに縋るくらいなら、俺さまに抱きついてきてくれりゃあいいのに。

「おーい、クライサちゃん?いつまで泣き真似してんの。先進まねーだろうが」
「……ダメ。むり。ゼロス、ちょっと進めて」

クッションに顔を埋めたまま首を横に振って意思表示し、床に投げ出していたコントローラーを渡してきた。ったく、しかたねぇな。溜め息混じりに受け取って、暫し固まったままだった画面上のロイドくんを、漸く歩き出させてやった。

この『TOS』なるゲームは、レザレノ本社でリーガルから貰ってきたというクライサちゃんが持ち込んできたものだ。なんでも俺さま達の旅……世界統合に至る一連の出来事をゲーム化したものなんだと。色々とツッコミたいところはあるが、あの会長殿の考案らしいし、市場に出れば即大ヒット間違い無しなんだろう。
ま、俺さまとしちゃ、主人公がロイドってとこと、俺さまの登場があまりにも遅いってとこに苦情をつけたいところだけど(とクライサちゃんに言ったら、彼女は「あたしなんか、ゼロス達よりずっとずっと後に仲間入りするんだから」と愚痴られた。そういえば、確かに彼女に出会ったのは旅の終盤近かったかもしれない)。

ゲームなんかガキの遊びだろうと思ってたけど、クライサちゃんには馴染みのないものらしく、どうにも興味深げな様子だったので、貰い物のPS3がどこかに仕舞われてただろうと思い出しセバスチャンにちょっくら探すよう命じた。仕事の早い執事は、すぐにそれを一番よく使っているリビングに運び出してきてくれた(その時のクライサちゃんの笑顔はたいそう可愛らしかったのだが、遺跡を前にした時のリフィルさまに少し似ていた。ちょっぴり複雑だ)。
テレビ画面に向いたソファーに俺さまは腰を下ろして、クライサちゃんはそのソファーに寄りかかるようにして床に座り、ゲームスタート。一緒にソファーに座ればいいのに、と思わなくもないが、上等な絨毯は体を痛める心配もないし、読書をする時なんかも彼女は癖のようにその位置に腰を落ち着けるので、今更言うことはない。

ゲームは、衰退世界シルヴァラント、コレットちゃんが信託を受けるところから始まった。再生の神子として旅立つ彼女と、リフィルさま、クラトス。イセリアを追われたロイドとジーニアスが、神子一行に合流する。封印解放と、ディザイアンとの戦闘とで忙しい旅路。クラトスの姿にちょいちょいイラッとしたり、暗殺者として登場するしいなのドジに呆れたりしながら、クライサちゃんの進めていくゲームを眺めていた。

「コレット……」

旧トリエット跡、ソダ間欠泉、バラクラフ王廟、マナの守護塔。各地の封印を解くたびに、コレットちゃんは天使に──無機生命体に近付いていった。身体が食事を受け付けなくなり、睡眠を奪われ、感覚を、声を失う。
話には聞いていたが、実際に(ゲームだが)ことの成り行きを目撃して、改めてコレットちゃんを不憫に思ったんだろうな。彼女が何かを失う描写があるたび、クライサちゃんは泣きそうに顔を歪めて、食い入るように画面を見つめる。

(ま、確かに、同情したくもなるわな)

鬱陶しいザコ魔物たちをハニーの二刀流で蹴散らしながら、内心で呟いた。
俺さまはテセアラの神子。コレットちゃんと対になる存在だ。一歩間違っていたら俺さまが彼女の立場になってたかもしれない、と思うとぞっとしないねぇ。……いや、まかり間違ってもそんなことにはなりえないと思うが。ミトスのやつ、大事な姉貴を男の身体にはしねぇだろ。

そろそろ落ち着いてきたらしく、クッションを抱えたままではあるが、クライサちゃんが手を伸ばしてきたのでコントローラーを返す(ちっ、早速クラトスを戦闘メンバーに戻しやがった)。
手持ち無沙汰になった俺さまは、視界の下方に見える空色に手を伸ばす。さらさらとした指通りとふわふわとした手触りを楽しみながら、ふと思い出した。

「クライサちゃんも、天使化のツラさって知ってんじゃねーの」

ただの同情でなく、大事な友人が苦しんでいる姿を見ているからこそ泣きそうになっているのだろうが、彼女とてコレットちゃんと同じ苦しみを経験した筈だ。

「んー、まぁ、でも、あたしの場合は喪失より激痛のほうがしんどかったし。『己としての死』を臨んで旅を続けなきゃならなかったコレットの気持ちはわからないよ」
「……激痛を耐えた果てにあるのが死のみ、ってのもたいそうな薄幸っぷりだと思うけど」
「ん?」

クライサちゃんが俺さまを見上げる。に、と笑ったかと思うとソファーに乗り上げ、俺さまの隣に座り直してこちらに寄りかかってきた。ふわ、とシャンプーの香りが漂って、今更ながらどきりとする(初心なガキかっての)。

「哀れんでんの?」
「心配してたの。正直、今だって心配なんだぜ?エクスフィアを外したら、天使化の抑えがなくなるわけだし」

コントローラーを巧みに操るその手の甲には、要の紋に守られたエクスフィアが確かに存在している。これが無ければ、クライサちゃんはこうして呑気にゲームを楽しむなんてことは出来ない筈だ。また全身を苛む激痛に苦しみながら、ベッドの上で死を待つことになるのだろう。
テセアラ王室がエクスフィア回収命令を出したとはいえ、今は俺さま達がそれを装備していることは特別に許されている。だがそれだって、いつまで続くかわからない。
不安が顔に出ていたのだろうか、こちらを見ていたらしいクライサちゃんの手はいつの間にか止まっていた。

「とうっ!」
「いでっ!」

肩に頭突きされた。地味な攻撃だが、だからこそ痛い。

「ちょ、クライサちゃん……」
「目、疲れた」
「はい?」
「寝る。30分したら起こしてね」
「は!?待っ、」
「誤差15秒まで。それ以上早かったらフリーズランサーで、遅かったらネガティブゲイトね」
「ちょー厳しいし!!」
「おやすみ」
「ク、クライサちゃん〜……」

俺さまの情けない声を無視してクライサちゃんは目を閉じてしまう。あ、これ本気で寝に入りやがった。完全に寄りかかられてしまってるし、下手に動いて睡眠の邪魔をしては絶対怒られる(サンダーブレード落っことされるかも)。

「……しゃーねぇなぁ……」

とりあえずこれだけはと、クライサちゃんの腕に後生大事そうに抱えられたクッションを奪い取り、ソファーの背後へと投げやった。







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