(2011.08.28)



「よーう、東方司令部の諸君!本日ハッピーバースデーなリオ・エックスフィート様がわざわざ中央から祝われに来てやったぜってぬわぁっ!!」

年に一度の異常なテンションで司令室の扉を開けたリオは、すぐさまマト●ックスばりに反り返ることとなった。顎の先スレスレを通って後方、廊下の壁にめり込んだ銃弾に、リオの背筋を冷や汗が伝う。

「……リオン」

発砲した張本人は、こちらに目をくれようともしない。畜生、また腕を上げやがった。標的を目視することもなく確実に急所を狙えるなんて。これがリオでなければ避けられなかっただろう。……いや、リオでなければそもそも撃たれなかったろうが。

「今のは牽制」

今ので!?
だいぶ殺意を感じたが。

「見ればわかるだろ。中央はどうか知らないけど、東方はちょっと忙しい時期なんだ」
「ああうん、中央もちょっと忙しかったけど逃げてきた。誕生日休暇だな」
「死ねばいいのに」
「何だとテメェ。目ぇ合わせて言ってみろ」
「死ねばいいのに」
「……ごめんなさい」

そんなやりとりの間も、リオン以外の誰もがこちらを見ようともしない。誰の机も書類が溢れていて、というか書類に埋もれていて、まさに忙殺されている司令部メンバーたちが黙々と作業を続けている。ちょっとどころじゃない忙しさだ。
一応会話のキャッチボールは、豪速球ながらも投げ返してくれるリオンも、ほとんど視線を上げようとせず、万年筆を握る左手も書類を捲る右手も止まる気配はない。メンバー全員が空気で語る。テメェの相手してやるヒマはねぇ。去ねと。

「何だよチクショ、祝いの言葉の一言くらいくれたっていいだろ」
「死ねばいいのに」
「真逆の言葉をありがとよ」

生誕記念日が命日になってたまるか。

「しっかし、本当に忙しいのな。構ってもらえなくて結構寂しんぼだぞ、俺」
「だから中央に帰れってウザいから。アームストロング少佐が祝福の抱擁食らわせてくれるだろ」
「食らいたくないから逃げてきたに決まってんだろ。ロスとブロッシュの犠牲を何だと思ってる」
「あんたも大概酷いな」

相変わらず相手をしてくれるのはリオンだけ(音声のみだが)だし、投げやりの「おめでとう」でさえ他の面々はくれないし。そろそろグレたくなってきた。エルリック兄弟でもいれば、ひたすらイジり倒してやるのだが。
そこで親友の筈の少女に目を向ける。やはり書類に埋もれて黙々と手を動かしている少女は、リオの登場から一切、こちらを見ようともしない。親友って何だろう。本気で疑問に思う今日この頃。

「おい、クライサ。親友に祝いの言葉はどうした?ったく友達甲斐のない奴だな」

と。文句を垂れた瞬間、分厚い本に頬を抉られてリオは床に沈んだ。銃弾よりも避けるのが難しいって。どんな肩してるんだ投げた奴。
ズキズキと痛む頬を右手で押さえ、乙女座りで顔を上げたリオは本の向かってきた方向を見て後悔した。修羅がいらっしゃった。背後にどす黒いオーラを背負って、口を真一文字に引き結んだまま、据わりきった目で射殺さんばかりにこちらを見る、天下の氷の錬金術師殿。
リオンの『牽制』に納得した。なるほど、鉛弾なんて可愛らしいものだった。命が惜しくてたまらないリオは、まず獣から視線を逸らすことから始めた。







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