(2013.11.06)



あたしたちは同じ職業で同じ職場に勤めているけど、朝、出勤する前にしなければならない仕事−−まぁ、端的に言えば家事だ−−は全てあたしが担当しているため、起床時間はあたしのほうが早い。それに加え、あたしは彼よりずっと年下、若いというより幼いから、どうしたって就寝時間は早くなる。
つまり、あたしが寝支度を終え、ベッドに入る時間は、ほぼ毎日、彼の一番の寛ぎの時間となっているわけだ。

だから、ベッドに入ってから数十分、なんとなく落ち着かなくて眠るのを諦め、リビングに行ってみれば、大抵は、その姿が見つかる。

「お兄ちゃん」

うっすらと開けたドアの隙間から、そっと顔を出して控えめに声をかける−−なんてことはしないが。ドアに背もたれを向けたソファーに腰を下ろした兄が振り返るのを待たずに、回り込んだそれの、兄の隣に腰掛ける。端に置いた四角いクッションを抱き込んで、どっかり座る兄の体に背を預ける形でソファーに乗り上げた。

「なんだ、眠れないのか?」
「ちょっとね。お兄ちゃんは、一人寂しく晩酌中?」
「どちらかと言えば、悠々自適に、だ」

ブランデーグラスを片手に悠然と脚を組んだ姿は優雅に見えなくもないが、生憎、肴はローテーブルの上に置かれたデイリー紙だ。一応は軍のお偉いさんの分類に入るのだろうに、やってることは一般家庭の旦那たちと同じ。ちょっぴりおかしくなって、うっかり零れてしまった笑い声を、クッションを強く抱き込むことで隠す。だけどやっぱり気付かれてしまっていたようで、肘で脇腹を小突かれた。今の笑いを、お兄ちゃんは何と解釈したのだろう。

「何か温かいものでも飲めばいいだろう」
「あ、ココア飲みたい。ちょぴっとだけ甘いやつ」
「淹れてほしいのか?」
「ううん。お兄ちゃんにそのへんは望んでませんから」

言っただけだ。馬鹿にしているわけではない。ココアぐらい、さすがに淹れられるとは思うけど、キッチン作業ではあたしの想像の斜め上を軽く飛び越えてしまう人だ。馬鹿にしてない。むしろ過大評価してるくらいじゃなかろうか。
ココア、と答えたせいで、本当に飲みたくなってきた。だけど立ち上がる気にもなれなくて、かわりのように、背後にある体に後頭部をぐりぐりこすりつける。猫のようだ、と我ながら思った。どうした。笑み混じりの問いかけが落ちる。

「甘えてる」
「甘やかされたいのか?」
「甘やかされてあげてもいいよ。なんたってあたし、妹だから」
「そうだな。甘やかさせてもらおう。私は、兄だからな」

笑いながら、優しくあたたかい声があたしを肯定する。今度は兄のほうが、猫にするように、あたしの頭をぐりぐり撫でてきた。

「そうだよ。あたしが全力で甘えてあげるのなんて、お兄ちゃんだけなんだから」
「はいはい、光栄ですよ」

こうやって、大人な兄は、子どもなあたしを甘やかす。仕方なさそうな口振りで、でもとても優しく目を細めて、愛おしむようにあたしに触れる手が、あたしは大好きなのだ。





TOX2で大川さんボイスの兄ちゃんに泣かされたので、違う方の兄ちゃんでほんわかさせてみた
「お兄ちゃんはあたしのお兄ちゃんだよね!?」「?あ、ああ…」「あたしの、あたしだけのお兄ちゃんだよね!?」「…もちろんじゃないか(なでなで)」「お兄ちゃん…(じーん)」っていうのと迷ったけど、うん、まぁ(何)






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