生まれた日を知らなかったあたしに、誕生日というものをくれたのはエドだった。初めて祝いの言葉をくれたのも、誕生日プレゼントを贈ってくれたのも、エドが最初だった。

けれど、それから毎年やってくる誕生日を、真っ先に祝ってくれるようになったのは別の人だった。

「誕生日おめでとう、クライサ!」

扉を開けると同時に鳴り響くクラッカーの音。飛び出した紙の飾りを頭の上に乗せたまま、暫しあたしは目を瞬くことしか出来なかった。

ここ最近徹夜続きで司令室に引きこもっており、漸く仕事が一段落して家でゆっくり休めるようになったのが昨日の夜。
兄と一緒に家路について、途中で買った食材で作った簡単な夕食を食べ片付けを済ませ、シャワーを浴びたあたりから少し記憶がなくなった。多分真っ直ぐにベッドに向かったのだろう。目を開けた時あたしがいたのは自室のベッドの上で、窓からは小鳥のさえずりと共に朝の日差しが射し込んでいたのだから。

「……おはよう、お兄ちゃん」

とりあえず朝の挨拶で返してやると、兄は上機嫌そうに笑みを浮かべたままあたしの肩を掴み、ダイニングのテーブルへと歩き出す。椅子に座らされたあたしの前に置かれたのは、四、五人分はありそうなワンホールケーキ。

「……あのさ、お兄ちゃん」
「どうしたんだね?君の大好きなショートケーキじゃないか」

取り皿やらフォークやらをいそいそと準備し始めたお兄ちゃんに、こめかみのあたりが痛くなってきた。飲み物は何がいいかという問いにとりあえずコーヒーと返して、暫し目の前のケーキを見つめる。昨日の帰りに買っていたのを見ていないから、おそらく今朝、あたしが起きる前に大急ぎで買ってきたのだろう。

「食べないのか?」

向かいの席に座ったお兄ちゃんは、フォークに手を伸ばそうとすらしないあたしを疑問に思うような顔で見つめた。対するあたしはケーキを眺めて大きく溜め息をつく。

「……あのね。あたし、さっき起きたばっかなの」

そんなんで朝からいきなりケーキなんか食べられるか。
苛立たしげに告げると、お兄ちゃんは途端に不安そうに顔を歪め、そして俯いた。あ、ヤバい。

「…そう…だな。すまない、私としたことが…そうだな、君の迷惑になることなんて当たり前にわかる筈なのに…」
「あ、いや…」
「本当にすまなかった。プレゼントは後で改めて、でも構わないかな?君の欲しいものを買ってあげるから」
「え、あ、その、えっと」
「とりあえず今は朝食の準備をしなくてはな。ああしまった、ケーキなんかよりパンを買ってくるべきだったか」
「ちょ、別にケーキ捨てる必要ないでしょ!?待った待った!」
「しかし…」
「いいからそこ置くの!あとで食べるから!」

とりあえずお兄ちゃんを座らせて、朝食の準備に取りかかる。叱られた子どものような顔で大人しく座っているお兄ちゃんを横目で見て、また溜め息が出た。
朝一番に祝いの言葉をくれるのは嬉しいのだが、なんだってこうも空回るのか。毎年繰り返されるやり取りに、あたしは呆れるほかないのだった。

「……でも、その気持ちは嬉しい。ありがとね、お兄ちゃん」
「!」
「(そうやって嬉しそうにされるから、次からはやめてくれって言えないんだよなぁ…)」








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