「クライサちゃーん。手ぇ出してー」

サイバックの図書館で偶然見つけた『プロトゾーン的50の質問〜メルトキオ編〜』を読んでいる最中にそんな声をかけられたので、紙面から目を離さないまま左手を伸ばしてやると、

「…………何これ?」

手のひらに小さな包みを置かれた。紙製と思われる黄色のそれが包んでいるのは、形からみて飴玉だろうか。閉じた本を脇に置き、手のひらの上でそれを転がしていると、少し経ってから隣に座ったゼロスが答えを返した。

「飴」
「うん。七、八割の人が見りゃわかるよ」

彼は『察しが良い人間』に分類される筈だから、こちらの質問の意図するところなどわかっているだろうに。

「クライサちゃん、今日誕生日なんだって前に言ってたろ?」
「あー。そういえば言ったっけ。で?これがプレゼントってこと?」

随分とお手軽な贈り物ですこと。手のひらでそれを転がしながら鼻で笑ってやる。

「飴を贈るなら常套手段があるんだけどねぇ」
「?何それ」
「口うつ」
「デリス・カーラーンまで吹っ飛ばすぞ」
「……って嫌がると思ったから、普通に渡したんだけど」

普通に渡してくれたのはいいが(そうでなかったら本当に宇宙の彼方までぶっ飛ばしてやる。ロイドにエターナルソードの力を貸してもらって)、それにしたってプレゼントが飴玉一個とは。テセアラの神子殿の財力を思うと、もう少し期待したいところだ。

「本当はむやみに高いものとかやたらと貴重なもの贈ろうとしたんだぜ?」
「うん。今からでも遅くないよ」
「でも、それは俺さまからのプレゼントってより、神子からのになっちまうだろ」
「……言いたいことはわかるけど、別にそんなのにこだわらなくていいし」
「や、単に俺さまが嫌なだけ」
「知らねぇよ」

その結果が飴玉一個?はっきり言って、心がこもっていなくてもただ高いもののほうが嬉しいです。

「っていうかプレゼントってそれで終わりじゃねぇからね」
「え、今までの流れ完全にそうだったじゃん」
「ほぼギャグだし。だってその飴、レモン味よ」
「包み紙からもしかしてと思ったけどマジかよ。そういうくだらないギャグやめてよね」

基本的に飴は何でも好きだが、レモンとミントは別だ。それを知っていて渡してくるなんて、と半ば呆れ気味に紙に包まれたままの飴玉を投げる。見事相手の額に当たったそれをゼロスは落下前にキャッチして、もう一方の手で額を擦りながら溜め息をついた。

「で?」
「心がこもったプレゼントと言えば手作りだろ?今日のディナーは俺さまが腕によりをかけて作るフルコースだぜ!」
「ふーん」
「あれ、お気に召さない?だったら切り札!国王に無理言って譲らせた城内書庫の希少本をプレゼントだ!」
「それはすごく嬉しいけど、とりあえずアンタはさっきの宣言撤回しなよ」








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