「誕生日だって聞いたから祝いに来てあげたよ」
「わぁありがとう、帰れ

チャイム音に呼び出され、覗き穴という素晴らしいものを活用することも忘れて扉を開けたあたしが愚かだった。そこに立つ人物を認識し、コンマの速さで扉を閉めたというのに、踵近くまで捩じ込まれた足に妨げられ断念。ドアノブを互いに握り締め、二方向へ引き合う力で扉がギシギシと軋んだ音を立てる。

「あ・け・て・よー!」
「か・え・れ!!」

来訪者を確認する前にかけておいたチェーンが辛うじて奴の侵入を拒んでいるが、それもいつまで持つことやら。そもそも相手に本気を出されては、チェーンを弾き飛ばされるどころか扉を壁ごと破壊されても不思議ではない。
二週間前に修理したばかりなのにまた、なんて御免だ。唯一入室を果たしている足をサンダルの踵で思い切り踏み潰してやると、悲鳴が上がると同時に足が引っ込んだ。その隙にドアノブを引くが、しぶとくも反対側のそれを掴んだ両手が阻む。

「しつこい!いい加減にしないと警察呼ぶよ!?お兄ちゃんという名の!!」
「本気でやめて!!マスタング警部、某アニメのおまわりさん並みに発砲しまくるんだもん!!」

一瞬力が緩んだ隙をついて、すかさず扉を閉めてやり、もちろん施錠もしっかりすると、扉の向こう側から溜め息が聞こえた。覗き穴から確認すれば、エンヴィーは額を扉にあてて項垂れているようだ。
誕生日を祝いに来た知人を、ろくに話を聞きもせずに追い返すのは、いくら好んでいない相手でも酷いのではないだろうか。一般論としてそんなことを考えつつも、奴を迎え入れる気はない。あんな知人1:9ストーカーな奴を。……違った。変態7:3ストーカーだった。

「ねぇ、今なんか失礼なこと考えてなかった?」
「いや別に」

扉越しに聞こえる声は普段よりも元気がない。あ、これは本気で凹んでいるのかもしれないな。
……。
一つ溜め息をついて、扉の向こうへと声をかける。

「ねぇ、アンタ何しにきたの?」
「へ?そりゃ、クライサの誕生日を祝いに…」
「他には?」
「他?……他…っていうと?」

誕生日を祝いにきた。なるほど、その言葉に嘘はないらしい。
ふっと笑みが浮かんだ顔を引き締めながら、鍵を外して扉を開く。勢いのついたそれはほとんど目前にいたエンヴィーの顔面に当たり、鈍い音と呻くような声が聞こえた。

「クライサ…?」
「ほら」
「え?」
「誕生日祝いに来たってんならあるんでしょ、プレゼント」

もらってやるからさっさと出しな。笑ってそう告げれば、相手の表情が一気に明るくなった。

「あ、それでもチェーンは外してくれないんだ」
「は?必要ないでしょ」
「……うーん……」









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