勝負運はいいほうだ。

「コール」
「うげ。またあたしの負け?」

床の上に並べられた五枚のカードに、向かいに座る少女は顔を歪めた。彼女の手元にあるカードの表す役は自分のものよりも弱く、少女の反応に気を良くしたオレはニヤリと笑う。

「今回の罰ゲームはなんだったっけ?おチビちゃん」
「『勝者を様付け呼び』だったっけ?ティッキー様」
「……出来れば伸ばさないでほしいね」
「ティッキ様?」
「そうでなくてね…」

ホテルの部屋に備え付けられていたカードを使ってポーカーを始めたのが、かれこれ一時間近く前。
そして今のが四戦目。それぞれに罰ゲームをつけてきたが、どれも些細なものだったので、お互い大したダメージは受けていない。

一戦目は、腕試しという形で、何も賭けずに勝負を始めた。これはオレの勝ち。
二戦目は負けたほうが勝ったほうの肩揉み。これは少女が勝った。
三戦目はホテルの外にある出店にジュースを買いに行く。これはオレが勝ち、彼女が全力疾走で買って帰ってきた。
そして四戦目は今終わり、これも勝者はオレ。

「んじゃ、次行くぜ」
「次は勝ーつ!」

最後、五戦目は今までとは違う。これこそが勝負だ。何と言っても、賭けてあるのは『敗者に何でもひとつ命令出来る権』。ベタすぎるとは思うが、男の永遠のロマンだから仕方がない。
カードを切り、互いの手札が揃ってからがまた勝負。少女はカードを見た瞬間に顔を歪め、五枚全部捨てて新たに手札を引いた。

(さて、どんな役が出来てるのかね)

扇形に広げた手札に隠れて、またニヤリと笑う。
勝負運はいいほうだ。あの白髪少年には散々やられたが、元々ポーカーは強い自信がある。加えてイカサマしているとなれば、勝率はかなりのものだ。

(せいぜい楽しませてくれよ、おチビちゃん)

はっきり言えば、初戦からイカサマしてました。腕には自信があるし、あからさまに良い役を出したり悪いカードを送ったりはしていないからバレてはいない筈。五連勝しては疑われかねないと、二戦目はわざと勝たせたんだし。
難しい顔をしてカードを見つめる少女の手前、自身の手札には、三枚のAに一枚のK、そして最後の一枚は愛しのジョーカー。不自然さを出来る限り排除したイカサマ手札で勝負に臨む。勝てる。確実に勝てる。

「さ、勝負だ」
「……おうさ」

自信のなさそうな少女の『コール』に応じて、自信満々の手札を床に広げた。だが。

「……げ」

大した役も出来ていないだろうと目を滑らせてみれば、彼女の手によって並べられたのは最強クラスの役。全く同じ柄でA、J、Q、Kが並び、その脇にはジョーカーの姿。なんでこのタイミングでロイヤルストレートフラッシュなんてもんが。

「好きにさせるとお思いで?」

視線を上げた先には少女の眩い笑顔。それはあの白髪少年のものとよく似ていて、瞬時にそこに含まれた意味を理解した。手練れだ。そんなまさか。

「さーてと。何でもひとつ命令出来る、だっけ?」

そして少女は立ち上がり、ベッドに腰を下ろすと足を組んでこちらに視線を向ける。その姿はまさに、アレだ。幼い顔立ちで妖艶に笑った小さな女王様は、オレを容易にその足元へと跪かせた。

「無理難題はやめてね、女王様…」
「ん?」
「聞こえないふり…!?」









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