「っエドの馬鹿!大っ嫌い!!」

ばぁん、と盛大な音を立てて閉められた扉を、これ以上無いほど後悔して見つめた。伸ばした手は何も掴むことが出来ず、ただ宙を彷徨っている。部屋の隅に立っていたアルの口から、あーあ、と呆れた声が零れた。

「何も今日ケンカしなくても良かったのにねぇ」
「……オレもそう思う…」

きっかけはとても些細なことだった。とてもつまらないことなのに激しい口論になってしまい、果てはクライサが部屋を飛び出して行ってしまって。今はただ後悔ばかり考えて、項垂れる。部屋を出ていく直前の、クライサの泣き出しそうな顔が目に焼き付いて離れない。
……大嫌い、か。

「ボクが行こうか?」
「……や、オレが行く」

オレがどう答えるかなんてわかりきった上でのアルの問いに、おそらく予想通りだろう返答をすると、小さく笑った気配がした。
今日のために色々協力してくれたというのに、今はただただ申し訳ない。ごめん、アル。兄ちゃん、思ってた以上にバカだった。

アルに見送られて部屋を出、クライサを探すこと五分。ホテルからそれほど離れていない河原で、その姿を見つけた。膝を抱えるようにして座り込む、小さな背中からは怒りの類いの感情は読み取れない。
先程のケンカは、とても些細なことが原因だった。言い争ったお互いの言葉は、多分どちらも間違ってはいなかったと思う。…いや、そもそも正しいとか間違ってるとか、そういう分類をつけることすらすべきじゃない。

オレが隣に腰を下ろしても、クライサは動かなかった。水面を見つめる顔はとても険しく、眉間には皺が刻まれていたが、オレに怒りをぶつける気も、そこから逃げるつもりもないようだった。多分、オレと同じ思いを抱いてるんだと思う。

「……エド」

そのまま川を眺めていると、やがてクライサが口を開いた。

「おなかすいた」
「そだな。ホテル戻るか」
「……うん」

立ち上がり、手を差し伸べる。それを掴み腰を上げた彼女は、しっかりこちらを見つめ返してくれる。自然と笑みが零れて、同じように笑ったクライサの手を握って歩き出した。
ケンカの謝罪は必要ない。握った手、握り返す手がそれを証明してくれる。

「……誕生日、おめでとな」
「……うん、ありがと」

ホテルまでの道中、殊更時間をかけて歩いていく。遠回りをしていることに気付いたクライサは、しかし何も言わずに笑っていた。





すき、きらい、すき、



(ーーーーだいすき)








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