※名前変換ありません





千鶴が庭の掃除をしている。今日は風もあまり無いので、落ち葉を集める作業は順調に進んでいるようだ。天気の良さに時折顔を上げ、嬉しそうに微笑み、また鼻歌を歌いながら箒を動かす。
そんな千鶴の前に現れたのは平助だった。

「よっ、よう、千鶴!偶然だな!」
「平助君」
「掃除か?…えっと、よかったら手伝うよ」
「ずっとそこで出てくるタイミング窺ってたくせに何が偶然だよ」
「姫も黙っときゃいいのに。もう少し眺めてたら面白い展開になったかもしれないだろ」
「うわぁっ!!な、い、いつからそこにいたんだよ、お前ら!?」
「最初からいたよ」
「アンタがそこの陰で千鶴見つめ始めるより前からね」

縁側でお茶してたあたしとリオンに見られていたと知った平助は、途端に顔を真っ赤にした。千鶴はあたしたちの存在を知っていたから驚きもしなかったけど、状況を把握していないようできょとんと平助を見つめている。

「あれ、理苑君がいる。懲りずにまた来たの?」

聞き慣れた声が背後から聞こえ、あたしとリオンは振り返った。千鶴が沖田さん、と呼ぶと、廊下から部屋を渡って縁側に出てきた総司が手を振る。そしてあたしとリオンの間に置かれた菓子箱に目を落とし、饅頭を一つ手に取った。

「三國屋の饅頭だね」
「リオンの本日のお土産だよ」
「僕もいただいちゃっていいかな、これ」
「どうぞ。はじめからそのつもりのくせに、わざわざ聞くなよ」

ほら平助と雪村も、とリオンに呼ばれて二人も縁側に寄ってくる。その間に総司はあたしの隣に腰を下ろし、上機嫌そうに饅頭を頬張った。

「おっ、理苑じゃねぇか」
「よう、理苑!来てたのか」

原田と永倉か、と零すリオンの声に呆れが混じっている。確かに、さっきからぞろぞろと組長格が集まりすぎである。というか、リオンが遊びに来ると、なんでか幹部が集まるんだよな。新選組って暇なのか、と本気で心配されたこともある。
イチくんまで加わって饅頭食べながらワイワイやってれば、お約束のようにその人はやってくる。ドタドタと足音を鳴らし、総司と同じように部屋を跨いでやってきた、鬼の副長。

「おいてめぇら!なに雁首揃えて遊んでやがんだ!手空きなら手空きなりに、平隊士の稽古見てやるなり自主巡察に出掛けるなり、やることは山ほどあるだろうが!」

うげ、土方さん。と顔を顰めた連中を一通り眺めて、彼の切れ長の眼が下方に落ちる。縁側に腰掛けて、目をつり上げた鬼を見上げていた少年へ。

「……浅沼。てめぇ、性懲りもなくまた来てやがったのか」

抑揚のない低い声に、平助と新八はぶるりと肩を震わせた。だがリオンの顔色は変わらない。……あたしも大概だと思うけど、リオンの肝の据わり方も異常じゃないのかなぁ……

「てめぇが坂本の間者だっていう疑いは晴れてねぇんだと何度言わせるつもりだ?本当ならふん捕まえて坂本の居所を聞き出してぇところを、麻倉の友人だってことで見逃してやってるだけだろうが。気安く屯所に入って来やがるんじゃねぇよ」
「いや悪いけど副長さん、遊びに来いってうるさいのはアンタのとこの麻倉だって」
「麻倉ァ!!」
「いいじゃん土方さん、そんなに怒らないでよ。リオンは間者みたいなこそこそ面倒くさいことなんかやらないよ。報告するんで屯所の中見せてくださいって正面から来るよ」
「いやそれもどうだよ」
「なぁ姫、お前喋るとややこしくなるから黙っててくれよ」
「そんな言葉であたしを止められるとでも?」
「思ってない。言っただけ」

土方さんはガックリと肩を落とす。あたしたちの毎度のやり取りに色んな気力を持っていかれたのだろう。その場にどっかり腰を下ろすと、大きな溜め息を吐きながら饅頭に手を伸ばした。

結局、土方さんもリオンには甘いのだ。また来たの、なんて言っていた総司も彼のことは気に入ってるみたいだし。イチくんとは気が合うのか、よく二人で話しているところを見るし。土方さんだって、あたしたちのいないところじゃリオンに愚痴聞いてもらってるらしいじゃないか。一番新選組の内情洩らしてるの、絶対土方さんだよ。

「ほんと、リオンがあの坂本龍馬の仲間でさえなかったらなぁ…」
「あの坂本龍馬の仲間に対して友好的過ぎるよな、新選組隊士」
「うわ、理苑が言っちゃうんだ」
「あはは。いいじゃない、理苑君が僕たちの邪魔をするなら、斬っちゃえばいいだけなんだから。ねぇ、クライサちゃん」
「えー、やめてよ」
「ほー?さすがのお前も、友達が斬られる可能性は考えたくねぇか」
「じゃなくて、リオンに勝てる人たぶんいないから」

沈黙が落ちた。当のリオンはお茶啜ってる。

「…………へぇ?」
「だからやめてよ総司、闘争心煽られないでって」
「てめぇでも勝てねぇってのか麻倉?」
「今のあたしじゃ勝てないだろうねぇ。錬金術使うのに制限あるし。っていうかリオンに双銃持たせたら誰もかなわないよ」
「……姫。その辺にしてくれ。俺が居たたまれない」
「え、そう?」

本当のことしか言ってないつもりなんだけど。お前は俺を過大評価しすぎだよ、なんて言いながらリオンはあたしの額を指で弾く。デコピン痛いよ。

「ふぅん。興味あるなぁ、クライサちゃんにかなわないって言わしめる実力」
「戦らないからな、沖田。新選組一の剣客に一般人がかなうわけないだろ」
「だからリオン、拳銃二丁持ってる一般人なんていないと思うよ、少なくともこの国には」
「姫に比べたら俺なんて一般人だろ」

あー、って口を揃えて納得しやがる新選組幹部達。千鶴まで、それもそうかも、みたいな顔してる。……でもちょっと待って。リオンは絶対一般人なんて呼べないんだって。コイツのスナイプ能力ほんと超人的なんだって!

「だいたい、あたしの友達が一般人なわけないでしょ!!」
「それ自分で言って悲しくならないか、姫」
「……クラちゃんと理苑君って本当に仲良しだよね…」



(今度こそ続かない。)








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