俺と同様に様々な世界に飛ばされる、毎度お馴染みの彼女とこの世界で会ったのは、俺がここに来て一年が過ぎた頃だった。

「何か食べに行く?今ならあたしの奢りだけど」
「いや、生憎だけどさっき食ったばっかだからさ」
「なんだ、残念」

幕末の京の都。何気なく歩いていた通りで偶然会った少女ーークライサ・リミスクは、少しも残念そうでない顔で笑った。
すっきりとした空色の短髪をふわふわ揺らし、男物らしき紺色の着物に身を包んだ彼女は何と言うか、京の町に異様に馴染んでいた。異国人の筈なのに。
っていうか、異世界で顔を合わせることに慣れきっている俺たち何だ。

「それじゃリオン、京に来たばっかなんだ」
「ああ。俺が飛ばされたのは西国のほうだったから、そっちにずっといた。今回は連れがこっちに用があるって言うからさ」
「連れ?……へぇ、ちゃんと仲間がいるんだね」

一応心配してくれていたらしい。その口調からすると、彼女も彼女でちゃんと仲間がいるようだ。さすが姫、適応力が高すぎる(俺も人のこと言えないか)。

それから俺たちは、道の端に寄ってお互いの近況などを立ち話することにした。俺より少し早くこの世界に来たクライサは、京での生活を心から楽しんでいるらしい。しかし戦闘狂なところは相変わらずで、腰に差した大小の刀は随分使い込んであるようだ。念のための護身用に差している俺とはえらい違いだ(懐に持っている銃が本命だから、刀の扱いにはそれほど自信がないのだ)。

「リオンはどうなの?こっちでの生活楽しんでる?」
「楽しいっちゃ楽しいけど……半々だな。突飛なこと考える破天荒馬鹿のそばにいるせいで、面倒も敵も多いよ」
「あはは、リオンってそういう苦労似合うよね」
「嬉しくねぇよ」

笑い事じゃないぐらいには大変なのだが、その『連れ』のそばを離れないあたり、俺はやっぱりこの世界での生活を楽しんでいるのだろう。

「そういや、お前って京で暮らしてるんだよな。どこに世話になってるんだ?」
「あー、それは…」

俺の問いに答えを返そうとした姫の言葉が不自然に途切れる。その目が俺の後ろに向けられていることに気付くのと、

「麻倉くん」

誰かを呼ぶ、聞き慣れない声が耳に届いたのは同時だった。
クライサにつられる形で振り返った俺の視界に入ってくる、揃いの羽織を着た男たち。隊列を組む彼らの先頭に立つ若い男が、こちらに目を向けていた。

「わざわざお迎えご苦労さまだね、総司」

麻倉くん、と呼ばれたのはどうやら彼女だったようだ。不機嫌そうにそう言ったクライサは、俺の隣まで足を進めてからその集団に向き合う。

「何かあったの?」
「『奴』が市中に入ったって目撃情報があったから、捜索にかかれってさ」
「『奴』がねぇ……せっかくの非番だったのに。それって副長命令?」
「そう。他の組はもう出てるよ」
「……じゃ、行きますか」

仕方なさそうに溜め息をついて、クライサは彼が投げた羽織を受け取った。それから俺へと振り返る。

「ごめん、今日はこのへんで」
「ああ」
「まだ暫くこっちにいるんでしょ?おいしい甘味処知ってるから、今度行こう」
「お前の奢り?」
「どうかな?あたしの気分次第かもね」

いつもと変わらぬ笑みを浮かべて別れを告げ、彼女はその集団の元へと歩いていった。羽織を纏い、先頭を行く男の隣に並んだクライサは軍人の時と同じ顔をしている。微笑む彼(クライサに総司と呼ばれていた)と目が合った。……真意の見えない笑みだ。

「…姫のやつ、よりにもよって面倒なところにいるんだな…」

彼らが通りの先へと去っていくのを見送ってから呟いた。遠目にも目立つ浅葱色のだんだら羽織。姫の呼んだ名前。それの意味する集団の正体に、俺は心当たりがあった。

ーー新選組、か。

ということは、クライサに会うには彼らの屯所を訪ねればいいのだろう。だが、紹介するつもりだった『あいつ』を連れて行くわけにはいかない。彼女と気が合うと思ったのだが。

「…黙っといたほうがいいよな」

彼女が新選組に属するというなら、話せるわけがない。
俺の連れが、

「坂本龍馬だ、なんてさ…」







(続かない。)








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