城での用事を済ませ、屋敷に帰ってきたのは日も落ちた頃。出迎えたセバスチャンに少女の居所を尋ねれば、

「ゼロス様のお部屋にいらっしゃいますよ。読書をされているようでしたから、後でお飲み物をお持ちしようと思っていたのですが」

との答えが返ってきた。わかったと頷いて、軽食も用意するよう言い残してから階段を上がる。人の気配の無い彼女の部屋を通り過ぎ、自室の扉に手を掛けた。
室内には予想通りの姿があり、彼女は部屋の奥に設置されたベッドに腰掛けて分厚い本を読んでいる。彼の気配には気付いているだろうに顔を上げようとも視線を向けようともしない少女に呆れる事なく、歩み寄ってベッドに乗り上げた。ぎしりと軋んだ音。他に室内に響くのは、紙の擦れる音と微かな呼吸音のみだ。

クライサは本が好きだ。
出会った当初、言葉は通じてもこの世界の文字が読めなかった彼女は、仲間に教わって旅の中で読み書きを完全にマスターした。今では、難しい言い回しばかりの分厚い本も難無く読みきってしまえる程だ。
そんなクライサのために、彼女が興味を持ちそうな本を時々取り寄せる事にしている。ただし、彼女の自室ではなくこの部屋で読む事を条件にして。

「……ゼロス」

ベッドの縁に腰掛けている少女の背後から腕を回すと、不機嫌声が名を呼んだ。邪魔だと言いたいらしいそれを無視して、目の前の空色に顔を埋める。鼻に触れる香りに頬が弛む。腹に回した手を叩かれても、力を弱めるつもりはない。優しく、しかし固く抱いた腕の中で、溜め息を吐く気配がした。
耳に届くのは呼吸音とページを捲る規則的な音。鼻に触れるのは柔らかな香り。肌から伝わる温もりと、己のものとは違うリズムの鼓動。重い瞼や鈍くなる思考。押し寄せる緩やかな波に逆らう事なく目を閉じると、腕の中の少女が笑ったような気がした。





人肌は最良の催眠剤





ノック音とセバスチャンの声に反応したクライサが思いっきり本の角で殴ってくれたため、一気に眠気も引いていったけど。





【H21/03/27】





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