「あれ、エドワードじゃん」
何してるんだ、と続けると同時に彼がこちらに振り返った。傘も差さずに歩いていたせいだろう、三つ編みにされた金髪も目立つ赤いコートもぐっしょりと濡れている。
「リオン…」
そっちこそ何してるんだと返されたので、見回り、と短く答え持っていた傘に入れてやった。ここまで濡れていたらもうほとんど意味も無いと思うが。
少年は俯いたまま、それ以上口を開かなかった。何かあったのだろうとすぐに理解し(というか明白だし)、かけようとしていた言葉を飲み込む。
さて、どうしようか。
「エドワード、ちょっと付き合え」
太陽の揺り籠
戸惑う少年の腕を引き、少々速足で向かったのは軍寮の自分の部屋。
とりあえずは体を温めろと彼をバスルームに押し込んで、シャワーの音が聞こえてくるのを確認すると自分は軍服の上着を椅子に掛け、エドワード用の着替えを用意した。
「お、出たか」
血色の良くなったエドワードが脱衣所から出てくると(やはりリオンの服では彼には合わないらしい。少しぶかぶかだ)、淹れておいたホット珈琲のカップを差し出した。
彼はいささか躊躇ったが、俯きながらもそれを受け取り促された椅子に腰掛ける。
同じようにカップを片手にベッドに腰を下ろすと、少しの間、エドワードから視線を外して黙っていた。
「……サンキュ」
先に口を開いたのはエドワードのほうだった。
そこで漸く彼に目を向けると、金の双眸はしっかり自分を映しており、リオンは無意識に微笑みを浮かべる。
「落ち着いたか?」
「ああ……まだ少し、いつも通り、ってわけにはいかない…けど」
「そうか」
自分に何か出来るとは思えなかったから、何も聞かない。
彼が話を聞いて欲しいと言うならもちろんそうするが、今のエドワードは下手に触れてはいけないようなものを纏っていたから、そうしない。
彼は自分と似たところがあると思っての判断だったが、どうやら間違いではなさそうだ。
「アルフォンスは?」
「図書館」
「そっか」
「ああ」
「……」
「……」
「飯、食いに行くか」
「は?」
ぐい、とカップの中身を飲み下してからの言葉に、エドワードは目を丸くしていた。リオンは構わず笑みを浮かべ、少年に手を差しのべる。
「昼飯。んで食い終わったら図書館行って、一緒に本読もう」
「…こんな格好で外出ろってか」
「嫌なら錬金術で服乾かせばいいだろ」
「それもそーか」
リオンを真似るように、少しぬるくなった珈琲を一気に飲み終えて、彼の手をとりエドワードは立ち上がった。
その笑顔に陰りは無く、リオンは心の底で安堵する。やっぱり彼に、暗い顔は似合わない。
「っていうかリオン、仕事は?」
「サボリ」
いいじゃん、雨なんだし
(結構いい性格してるよな、お前も)
(ま、周りがアレだから)
【H20/07/13】