(合縁/ティキ)
「よーっす。おチビちゃん、久しぶり」
「…来ないなぁ…そろそろ来てもいい頃だと思うんだけど…」
「おチビちゃーん?」
お互い仕事で訪れたとある町にて。ある筋から得た情報を元に、あるホテルのある部屋の窓から室内に侵入すれば、目的の少女はベッドに腰を下ろして何かに熱中しているところだった。
「おーい」
「うるさいストーカー舌噛んで死ね」
「いきなりぶった斬り!?」
とは言いつつ攻撃行動に出る様子はなさそうなので、近寄ってみることにする。クライサはティキが隣に腰を下ろしても顔を上げることはなく、視線は四角いものを持った手元に落とされたままだ。
「あ、それってディーエス?おチビちゃんもガキ共と同じような遊びすんだね」
「…っしゃ来た!!」
「…………無視、ね」
世の子どもたちに大人気のゲーム機を片手に、クライサは勢いよくガッツポーズをした。そして目を丸くしたティキに構わず、まさにのめり込む、といった様子でプレイ中のゲームに集中する。ティキにとっては面白くない。
「おーチービちゃん」
「うるさいってば。今はぐれメタル相手にしてて忙しいの」
「(はぐれ…?)なー、構ってよ」
「えーと、メタル斬りとさみだれうちと…」
「あーそーぼー」
「あーとーでー」
「……」
つまり後でなら構ってやると明言しているわけだが、彼女の言う『後』がいつになるか全く見当がつかない。このハマりっぷりから見て、一時間や二時間では現実に帰って来はしないだろう。下手をすれば数日、数週間、数ヶ月後まで無視され続けるかもしれない。
「なあ、それこそゲームなんか後ででも出来るだろ」
「アンタのためにこっちを後回しにする気なんかないって」
「ひっでぇの。オレなんておチビちゃんのために仕事サボってんのに」
「いや仕事しろよ。あたしのためとか言われても全く嬉しくないから」
「一応エクソシスト狩りなんだけど。仕事」
「へー」
「あれ、いいの?」
「別に。どうせ止めたって意味ないし」
「…おチビちゃん襲っても?」
「そしたら握り潰す」
「何を!?」
アクマとの戦闘時でさえ見せないほど真剣な顔で画面を凝視しているクライサは、会話中一度もティキを見なかった。面白くない。ディーエスなるゲーム機を取り上げるのは簡単だが…多分実行に移したら色々取り返しがつかないことになるのだろう。
「なあってば」
「だから……あ」
「ん?」
「…………」
「おチビちゃん?」
「……アンタのせいで」
「(……げ)」
「アンタのせいで逃げちゃったじゃんかはぐれメタル!!」
「え、それオレのせいなの?」
「アンタのせいだバカ!カス!!腐れ外道!!!」
「何それちょっと、おチビちゃん落ち着い…」
「うるさい馬鹿アホ変態バカ天パ学無しストーカー馬鹿カス屑バカ」
「バカ四回言ったね。そんなにバカかオレ」
「いい加減出てかないと吊るすぞバカ」
「また言ったし」
「やっぱり潰……っと、また来たよっしゃ!」
散々罵られて遠い目をしたティキを放置して、クライサは再びゲームに向き合った。その口元には笑みが見られるため、どうやら今度はうまく行っているらしいことが窺える。機嫌は上昇しているようだ。
「オレの心は傷だらけだけどな…」
021:数え切れない傷
ドラ●エ楽しいねって話
【H22/01/22】