三日間続いた大雨は、この地域の交通機関を完全に駄目にした。
漸く汽車が復旧してくれたおかげで、任務後、足止めされていたアレンとクライサも教団に帰ることが出来る。

「アレン。次の汽車、二時間後だって」

元々田舎町だったので、汽車の運行がまちまちなのは承知の上。動いているだけ万々歳だ。

「それじゃあ、その時間まで」

「暇潰しでもしましょーか」





水面に映る





三日間の、嵐のような天気が嘘のように、頭上には雲一つ無い青空が広がっている。遥か彼方まで続く青に、少年は眩しそうに目を細めた。

「アレン!」

呼ばれて振り返ると、晴れたことで機嫌が良くなったらしい、クライサが少し離れた位置から手招きをしている。その足元には、大きめの水溜まり。続いた雨の激しさを表すように、その中心は若干深めだ。

「どうかしましたか?」

「いや、どうもしてないんだけどさ!水溜まりがあったから!」

「………」

どうやら、かなりテンションが上がっているらしい。神田やラビがいれば呆れられそうな彼女の様子に、アレンは苦笑した(そんな彼女の姿が見られて嬉しい、という気持ちも、少なからずあるけれど)。
どうしたものかと考えていると、パシャ、と軽快な音がした。次いで感じたのは、冷たさ。

……………冷たさ?

「ちょ、クライサ!?」

「ん?なに?」

まず足に視線を落として、ズボン(膝の上辺り)から下が濡れていることに気付いた。それが足元の水溜まりに残った雨水によるものだと理解するのに、大して時間はかからない。
そして瞬時に、その元凶らしき少女を水溜まりの中心で見つけた。

「何してるんですか!?」

「遊んでんの」

子どものような笑顔を浮かべている彼女は、水溜まりの中で元気良く跳ね回っている。歩くだけならまだしも、わざわざ雨水を跳ねさせているのだ。
周囲にアレン以外の人間がいないからまだマシだが、これは確実に周りに迷惑をかける行動である(現にアレンは服を濡らされたわけだし)。

「駄目ですよ、ビショビショじゃないですか!」

「すぐ乾くって」

「そういう問題じゃないです!ほら、まずは水溜まりから出て…」

彼女と同じようにそこに足を踏み入れ、動きを止めた少女に歩み寄る。そのまま腕を引こうとするが、急に体当たりを食らい、二人一緒に倒れ込んでしまった。当然、今度は全身が濡れてしまう(少し泥が混ざっている。最悪だ)。

「クライサ!」

「あっはは!」

自分には珍しく怒鳴りつけてみても、少女は声を上げて笑うだけで。これは怒ったところで効果は無いなと判断し、クライサが笑い終えるのを待つ。

「……っはぁ。スッキリした?」

「……それはどちらかと言うと僕の台詞ですよ」

「ううん、あたしの台詞だよ」

何が言いたいんだ?
首を傾げると、先程の心底楽しそうなものとはまた違った笑みを向けられた。

「最近のアレン、なんか参ってるみたいだったから」

「!」

「ちょっと荒い手だったけど、少しは気、抜けた?」

ドキリとした。最近精神的に疲れていたのは、彼女の言う通りで、しかし、リナリーたちにも心配をかけないように振る舞っていたのに。クライサには、見抜かれてしまっていた。

「…だからって、これはないですよ」

「あはは、宿に戻ってシャワーだけ借りよっか」

けれど、確かに、少し気が楽になった。心からの笑みを浮かべて、彼女に礼を言う。
返された笑顔が、好きだと、思った。





水溜まりは踏んでなんぼ
(水溜まり凍らせてスケートってのも楽しそうかも)
(いいから帰りますよ)






【H20/07/04】





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