「…っ、たぁ!」

足首から走る激痛に、思わず声が出た。注意して歩いていたのだが、剥き出しになっていた太い根に足を引っかけてしまったらしい。その場に立ち止まって未だ続く鈍い痛みをやり過ごしてから、前方を歩く背中を睨み付けた。

「肩ぐらい貸してくれたっていいじゃんよ…!」





喧嘩するほど





彼との任務が決定した時から、嫌な予感はしていたのだ。
目的地は人里離れた山奥、任務内容はいつも通りイノセンスの回収(+アクマの破壊)、同行者は神田。せめてアレンやラビが相手だったら、こんな思いはしなかったかもしれない。

任務は成功。山奥で眠っていたイノセンスは無事に回収され、今は神田が所持している。
そこでお約束のように襲撃してきたアクマの大群に、あたしたちは二手に分かれて対した。
相手はレベル1や2のものばかりで、全て破壊することは別に困難ではない。実際、敵の排除が済むまでにかかった時間は長くなく、大した怪我も負うことはなかった。
……なかったの、だが。

(まさかあんなところに崖があるなんて…)

戦闘を終えて油断していたのだろう、神田と合流すべく踏み出した足の先が、崖だと気付けなかった。一生の不覚だ。
幸い小さな崖だったおかげで打撲程度で済んだのだが、中途半端に着地しようとしたのがまずかった。高さが足りず、着地体勢をとる前に地面にぶつかってしまったせいで、右足首を捻ってしまった。
何とか神田と合流したものの、足が痛くてしょうがない。実は立っているだけでもべらぼうに痛い。

(だからって労ってくれるでもないんだもんなぁ、あのパッツン頭!)

スタスタと前を歩いていく背中が恨めしい。いや、他人を気遣う神田ってのも気色悪くて嫌だけども!

「さっさと歩け、チビ。日が暮れちまう」

「だったら肩貸せこんチクショー!!」

たまにクルリと振り返って、不機嫌そうな顔で文句を言いやがるのだ、この野郎は。こっちは痛みに耐えながらも必死に足を動かしてるのに!
そしてあたしの要求なんて一切聞かず、また歩き出す。

(……ん?)

ふと、気が付いた。彼の歩みの速度が、普段よりかなり遅いということ。足の動きはいつも通りのように見えるのに、明らかに歩幅が違う。
もしかして、

(あたしに合わせてる…?)

そういえば、彼がこちらを振り返るのは、必ず一定の間隔で、あたしが歩みを止めそうになった時。
来た時と違って、ぬかるみの多い道は決して通らない。
日が暮れそうだと言いながら、置いていくという選択はしない。

(なーんだ)

何だかんだ言っても、気遣ってくれているんだ。それが直接的な助けでなくとも、あたしにとっては十分支えになる。

また振り返って、足を止めそうだったあたしに声をかけた。いつものような憎まれ口、返す言葉は、端から見ればいつもの口喧嘩。
けれどあたしの顔に笑みを見つけて、神田は溜め息を一つ吐いて、またゆっくりと歩き出した。





そっけないふりをして
(日が暮れたら置いてくぞ)
(ちょ、マジっすか!?)






【H20/07/02】





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