「なあ、クライサ」
前を歩く少女に声をかけた。
振り返った空色と目が合い、首を傾げた表情が普段以上に幼く見える。
「お前にとって、俺って何?」
複雑な告白
「え、下僕」
明日は非番だと言った途端、デートしようと誘われたのは昨日の出来事。好きな女からのお誘いに、新品のシャツを着て俺はウキウキと出掛けてきたわけだ。
ここはセントラル。焔の兄貴の邪魔はない。
時計台の前に愛しい少女の姿を見つけ、テンションが更に急上昇したのは、ちょうど一時間前。
だがどうしたことか、彼女が行きたがる店は、悉く俺の予想を裏切ってくれる。服や鞄(しかもちょっと高め)、小物類、雑貨、果ては食材まで買って欲しいとねだる始末。
ああ、ここまでくりゃ嫌でもわかるさ。こりゃ、デートじゃなくて、ただ買い物に付き合わされているだけだ。しかも財布は俺持ちときた(金持ちのくせに!)
そんなわけで、内心恐る恐るといった感じでぶつけた質問に返された言葉に、俺は地面に崩れ落ちてしまった。
ゲボク…下僕て。
うう、マズイ、再起不能になりそう…
「ちょっとリオ、荷物ばらまかないでよ」
「ばらまいてねぇよ」
明らかにショックを受けている俺より買った物の心配か(まぁ、彼女らしいと言えばらしいが)。
そうだ、クライサの性格からすれば、この程度で凹んでなんていられない。立ち上がり顔を上げれば、空色が楽しそうにこちらを見ていた。
「……うそ。リオは親友だよ」
裏の無さそうな笑顔。ああもう、何度惚れさせれば気が済むんだ、コイツは。
頬を微かに桃色に染めて、また先へと駆けて行ってしまった。残ったのは俺一人。
視線の先で、少女がこちらを振り返る。はにかんだ笑顔に、こちらも自然と笑みが浮かんだ。
「親友、だってよ」
嬉しい。
嬉しいのだけど、
友情よりも、愛情がいい
(叶わぬ願いと知りながら)
【H20/06/25】