(クライサとリオン)





いつも強気な光を帯びた目は何かを睨むように細められ、白い眉間には深い皺がいくつも刻まれている。胸の前で組んだ腕から伸びた右手は顎に当てられ、その癖を知る者から見れば彼女が考え事をしているのは明白だった。……いや、あんな顔をしていれば誰だってわかると思うが。

「姫?」

一点を見つめる少女に声をかけても何の返答もない。顔を上げる様子もないし、どうやら声が届いてすらいないようだ。さすが仮にも天才錬金術師、かなりの集中力だ。
机上を見つめて何を悩んでいるのか知らないが、一体どれだけの時間そうしているのだろう。少なくとも、リオンがここに戻ってきてから三十分間は同じ体勢で同じ場所を見ている。よく飽きないな。まあ、その様をずっと観察している自分も同じようなものだろうが。

「……リオン」

もうそろそろ休憩時間が終わる頃だが、いつまで悩んでいるのだろう。そんなことを思っていると、少女が視線を動かさないままこちらの名を呼んだ。なんだ、一応存在には気付いていたのか。……なら返事くらいしろよ。

「なに」

「リオンって、二択ですごく迷った時、どうしてる?」

「はぁ?」

恐ろしく真剣な表情で尋ねてきたので、こちらも至極真面目に考えてみることにした。二択……二択か。例えば、同じ形の靴の白黒どちらを買うかとか、読みたい本が二冊あるのだがどちらか一方しか借りられない時だとか、思い付くのはそれくらいだ(ちなみに迷うぐらいなら両方捨てる、というのが結論だ)。
しかしクライサの表情から察して、その程度のことで悩んでいるのではないのだろう。仕事(軍部)関連か本職(錬金術)か。もしかしたら人の命が関わるような件かもしれない。それならば、こちらが下手なことを言うわけにはいかないだろう。

「あー……そういうのって、人から意見聞くもんじゃないだろ。場合によっちゃ、人の助言受けたから余計後悔する結果になったってことにもなりかねないし」

「……そっか」

「自分で悩んで悩んで出した答えなら、きっと後悔することも無いだろ」

「…うん、そうだね」

やっぱり自力で答え出すよ、と言ってそれきり黙り込んでしまったクライサを、リオンはまた観察する目で見つめる。彼女が何を悩んでいるのか、真剣に気になり始めてしまった。これは結論を出すところまで見守ってやらないと、こちらが仕事に集中出来そうにない。
それから暫くして、クライサはやたら晴れやかな顔を漸く上げた。

「よし、決めた!」

そして強く握ったフォークを、机上に二枚並べた皿の片方へ向け、白いそれに突き立てる。

「ショートケーキを先にして、チョコのほうは後で食べる!」

そんなどうでもいいことであんなに悩んでたのかお前

「どうでもいいとは何さ!ケーキを食べる順番ほど重要なことは無いでしょ!!」

「はいイチゴ没収ー」

「いやああぁ一番の楽しみなのにぃぃ!!」





020:決意
ひどく甘いイチゴでした





【H21/11/25】





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