daily life
〜1日目 with E〜
「クライサ!」
「ふぇ?何?」
オレが声をかけると、前を歩いていた少女ーークライサは振り返った。その目を大きく見開いてこちらを見ている。結構前から声かけてたんだけど、今漸く、やーっと、気がついたようだ。
「いつも言ってんだろ。考え事しながら歩くな」
大佐に呼ばれてわざわざ(ここ重要)司令部まで足を運んでやったところ、目の前をコイツが通り過ぎた。とりあえず挨拶するかと思って声をかけたはいいが、コイツ、全く反応しないで歩き続けやがって。そこでオレも、ちょっとばかし意地になって、気がつくまで名前を呼び続けたのだ。
「え、なんで考え事してるってわかったの?」
「コレ」
左手を自分の顎に当てて見せる。これは、考え事をしている時のクライサの癖だ。
「あ……」
「本当にお前って兄貴そっくりだな。癖まで大佐に似たのかよ」
そう。これは大佐の癖でもある。と言ってもいつも見てるわけじゃないから、毎度このポーズをとっているのかは知らないが。
「ったく…考え事してる時は周り見えなくなるんだから気をつけろよな、お前」
「ちゃんと周り見てたもん、余計なお世話」
「へぇ?なら何処に行くつもりだったんだ?」
「執務室に……あ」
やっと気付いたか。大佐の執務室なんてとっくに通り過ぎてるぞ。
「…うー……」
「歩きながら考え事すんなよな。あと作業しながらもダメ」
危なっかしいんだ、コイツ。
普段はしっかりしてるくせに、そういうとこは抜けてる。階段から落っこちかねないんだよなぁ。
クス、と不意にクライサが笑った。
「この間アルにも言われたよ。本当に兄弟だね」
「…それだけお前が危なっかしいんだよ」
「でもアルはね、この癖は『兄さんに似てる』って言ってたんだよ」
そう言って、先程のポーズをとって見せた。
「……なんかそれ、オレと大佐が似てるみたいじゃん」
すっげービミョー。むしろ嫌。
でも
「そう言うわりに嫌そうに見えないんだけど?」
「気のせいだろ」
コイツに似てるってのは、そんなに悪くないかも、な。