(FA/エド)
※本編より三年前の話
自分の髪の色が嫌いだった。
すれ違う人々の、物珍しげな視線が嫌いだった。
今よりずっと昔、もっと幼い頃、研究員の誰かが『綺麗な青空色』だと言った。嬉しかった。けれど同時に、この色が異質であるということを知った。
姉とも違う、研究員たちとも違う、来客の誰とも違う。この色は『おかしい』のだと知った。
髪に触れられるのが嫌いになった。色を褒められるのが嫌いになった。触れられるのが嫌だから髪を切らなくなった。伸びたらますます見られるようになった。嫌だった。
『綺麗な色だ』
皆と同じことを兄も言った。頭を撫でようと手を伸ばした。けれどあたしはそれを拒んだ。『気持ち悪い色』と呟いたら、兄は少し悲しそうに笑っていた。
皆と違う色が嫌だった。姉と違うのが嫌だった。視線を集める色が嫌だった。集まる視線が嫌だった。必要以上に意識してしまう自分が嫌だった。
「言われてみれば、確かに見ない色してるよな」
「言われてみればって…初めてだよ、そんなこと言った人」
「や、あんま意識したことなかったからさ」
目立ち過ぎるこの色を、意識してないなんて言った人は彼が初めてだった。そりゃあ、珍しい色だと思ったことが無いわけじゃないけど、と続けられる。やっぱり皆一緒だと思った。
自分と違う色。誰とも違う色。珍しい色。だから『綺麗だ』と褒めなきゃならない。一種の強迫観念。
だから彼も、同じことを言うのだと思った。
「きれいとか…そういうのはよくわかんねぇけど、オレは好きだな」
その色。
「……え」
「どうした?変な顔して…オレ、なんか変なこと言った?」
すき。
きれいじゃなくて、すき?
……す、
「え、おい、どうしたんだよ急に!調子悪いのか!?病室戻るか!?」
「や、なんか力抜けちゃって…」
「なんだよそれ…急に座り込むから、何かあったのかと…」
「……だって」
好きだな。
「そんなこと言われたのも、はじめてだったから」
そう言った彼の眼が、とても真っ直ぐだったから。
「…ちょっと、うれしいかもしれない」
この色を、少し好きになってみようと思った。
001:opening
無意識の恋のはじまり
最初から自慢だったわけじゃないんです
【H21/05/16】