(TOV/物語前っぽい)





楽しいことが好きだ。仲間内のお喋りを聞くこと、混ざること。魔物との戦闘など、体を動かすこと。旅とも呼べないけれど、街から街への移動も好きだ。
けれど、退屈も嫌いではない。少なくとも、自分のまわりは平和だと認識出来るから。周囲を気にせず昼寝をしたり、高い建物の屋根から地上の人々を眺めたり、のんびり過ごすことも嫌いじゃない。むしろ好きだ。

戦う力の無い行商人や旅人の護衛をしながら結界の外を進み、無事に目的地に送り届けられたなら報酬が支払われる。その額は特別大きいわけではないし、いつでも客を得られるわけではないが、それでも一人の生活費にするには十分だ。結界の外は魔物で溢れて確かに危険だが、適度に体を動かすにはちょうどいい。どこかの街に定住もせず移動を繰り返す生活だが、満足のいく毎日だ。

「え?ああ、もうじき着きますよ。ーーほら、見えるでしょう?帝都の結界ですよ」

狼型の魔物を三体ほど斬り倒したところで、大岩の陰に隠れさせていた男女が恐る恐るといった様子で近寄ってきた。彼らはハルルの街で護衛を請け負った夫婦で、目的地の帝都には知人に会いに初めて訪れるのだそうだ。遠くに見える巨大な結界を指差して言えば、彼らは些か安心したように深い息を吐き出した。

「少し歩いたら休憩にしましょう。…ええ、もう少しだからと焦ってしまえば、魔物への警戒も十分ではなくなってしまいますから。大丈夫ですよ、焦らなくても帝都には夕方までには着けますから」

双剣についた血を払い、布で拭ってから鞘に仕舞う。夫婦が納得したのを確認してから歩き出し、狼の死骸から離れた。いつまでもあの場にいては、血の匂いを嗅ぎ付けた他の魔物が寄ってきてしまう。いつも通りに客を導き、より安全な道を歩いて目的地へ向かう。大きな変化など無い、平和な一日だ。

ふと空を見上げる。雲が浮かんではいるがよく晴れたそれは、いつも見ているものと同じく青かった。

(いつもの空だ)

変わらない生活、変わらない空、変わらない世界。こうしている間にも過ぎていく時間は、それでも変わらない明日を運んでくる筈だ。不満は無い。変化の無い毎日、結構じゃないか。

「ーーえ?帝都に噴水?ありますけど、それがどうし…」

夫婦が指差した先、目を向けた先。少し近くなった帝都ザーフィアスの下町で、大きな水柱が上がっている。その高さや勢いは市民街にある噴水の比でない。というか明らかに鑑賞用ではない。

「…あれ、水道魔導器(アクエブラスティア)の辺りじゃないか?」

あのオンボロ魔導器、また壊れたか。大仰に溜め息をついて、夫婦の先導を再開した。

(水道魔導器が壊れたんだとしたら、下町は大変だろうねぇ。どうせ騎士団は動かないだろうし、)

「……アイツも走り回ってんのかね」





016:見上げた空
その時はまだ、変わる世界を知らなかった





【H21/09/11】





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