(クライサとリオン)
器用で何でも出来る印象の強いリオン少年が料理下手だと知って数ヵ月。鋼の兄弟との旅の途中でイーストシティに寄ったクライサは、食材の詰まった袋を抱えて軍寮の一室を訪ねた。
非番だった少年は反応薄めに驚きつつクライサを部屋に招き入れ、ずかずかとキッチンスペースへ直行する彼女の後を追った。
「はい」
リオンは差し出された紙の束を受け取り、何だこれ、と首を傾げた。
「見てわかるでしょ?料理のレシピ。わざわざ作ってやったんだからね」
「で?」
「リオンって料理に関する知識が無いからまともな物作れないんでしょ?せっかく瞬間記憶能力持ってんだし、レシピを隅から隅まで覚えればちゃんとした料理が出来ると思うんだ」
「…なんか色々聞き捨てならない気がするけど、まぁそうだな」
「だからはい、すぐにそれ覚えて。そしたら早速特訓始めるよー」
「どうでもいいが、なんでそんな張り切ってんだお前」
(数十分後)
ああ、あたしはなんて無駄な時を過ごしたんだろう。狭いキッチンの壁に寄りかかりながらクライサは思った。
室内はまるで嵐が過ぎ去ったかのように荒れ果てている。何か変なこと書いたっけか、とレシピ集に目を通すが、いつも自分が料理する時の手順が書かれているそれにおかしい箇所は無い。
「ねぇ、アンタそんなにあたしのこと嫌いなの?」
「は?なんだよ急に」
急も何もあったもんじゃないさ。レシピに無い物を入れたがったり、必要な工程を無視して勝手なことをしたり、嫌がらせとしか思えないような行動をしといて何を言うか。悪気が無いというから、なお質が悪い。怒る気力も失った。
「どうだ?結構美味そうだろ」
「オニオンスープにイチゴ入れる人初めて見た」
「知らなかった。パスタって茹でると鍋爆発するんだな」
「しねーよ」
「なぁ、米とぐ時って洗剤どのくらい入れるんだ?」
「ねぇそれ天然?」
「うわ、かなり散らかっちまったな…料理って大変なんだな」
「アンタの頭のほうが大変だよ」
一体この少年はどんな生活を送ってきたのやら。
クライサはもう二度と彼に料理はさせまいと誓った。
015:今、自分にできるコト
あたしにできることなんか無さそうです
いっそ天然記念物
【H21/08/23】