(クライサと軍部+エド)





「お姫のチョコは毎年気合い入ってるよな」

包装を解き、箱の中身を見たブレダの素直な感想に、クライサはえへんと胸を張った。

「せっかく作るんだし、腕によりをかけないとねー」

「どんなに忙しくても必ず手作りだもんな。まったく感心するぜ」

「既製品を渡すだけじゃつまんないからね。それにほら、手作りのほうが色々仕掛けやすいじゃん」

……なるほど。
輝かんばかりの笑顔を浮かべて少女が言うので、その場にいた全員が納得した。偶然やってきたらしい某大尉を、彼用に作った激甘チョコを持って追い回し始めた彼女を見送ったのは、つい先程のことだ(何故偶然来た筈の彼用のチョコが作ってあったのかは永遠の謎だ)。

「そういや鋼の大将には渡したのか?」

「んーん。エドとアルにも作ってはきたけど、まだ会ってないから。司令部に来るとも聞いてないし、あとでホテル行こうかと思ってるんだ」

「…いや、鋼のは来るだろう」

「え、もしかしてエド呼んだの?何か用事?」

なら待ってれば来るのかなぁ、なんて本気で言っているらしい少女のある意味神がかった鈍感さに、ロイをはじめ皆が溜め息を吐いた。本当にこの二人の進展ぶりは、焦れったいを軽く通り越すようだ。
などと一同が思っている間に、コンコンと叩かれたドアが開かれ、話題の中心にいた少年が顔を出す。

「あら、エドワード君」

「こんちは」

扉脇にいたホークアイにまず挨拶して、自身に続いて入ってくるだろう友人のためにドアを開けたまま、室内に足を踏み入れる。そして目が合ったハボックやフュリー、ブレダやファルマンらとも挨拶を交わし、ロイの嫌みに軽く反発してから、入室の際に視界にいた筈の空色へと目を向ければ。

「……あれ?」

いない。

室内を見回してみても、やはりいない。
ついでに言えば、開けておいた筈のドアが閉まっていた。自分の後に入ってくる筈だった友人の姿も、やはりない。

「……?」

首を傾げるエドワードをよそに、彼が室内を見回し始めたあたりからその事実に気付いた軍人たちは、一様にこう思った。
逃げたな、と。



「……何やってんだ、お前」

司令室と扉を隔てた廊下にて。エドワードに続き入室する筈だった少年は、自分が潜る予定だったドアを背にして座り込む氷の錬金術師に、呆れた声をかける。

「おかしい……絶対おかしい」

「何が」

この少女、何か知らんが物凄い速さで部屋から出てきたと思ったら、物凄い速さでドアを閉め、こちらも構わず座り込んでしまったのだ。邪魔である。

「なんで…なんで、エドには…」

「姫?」

「なんで…」

聞こえていないようだ。
溜め息しか出ない。このまま立ち尽くしているわけにもいかないし、いっそ蹴飛ばしてやろうか。そう思ったリオンは改めてクライサを見下ろし、ーー目を瞬いた。
何かを抱くようにした両腕の中には、可愛らしくラッピングされた包み。なんで、とか、おかしい、とか呟いている少女の頬は赤い。なるほど。

「……ほんとお前らって……」





進展してるのやらしてないのやら

(絶対おかしい……お兄ちゃんにも中尉たちにもリオにも異世界の誰かや誰かにも普通に渡せたのに)

(聞き流せないようなことサラッと言うなよ)

(なんで?なんでエドには渡せないんだろ…はい、って普通に渡すだけなのに…躊躇う必要ないのに…)

(本命だからだろ)

(え)










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