(リオンとエド)





二日前に借りた資料を返すため、エドワードは東方司令部にやってきた。
弟は、いつの間にか仲良くなっていたらしい宿屋の子ども(10歳弱くらいの小さな女の子だ)と遊ぶ約束をしているから、と何故かニヤニヤしながら送り出してきた。いや、鎧だから表情はわからないのだが、そんな雰囲気だった。

「あれ、リオン?」

「ん?」

資料室に入ったところで、見慣れた少年の姿を見つけてその名を呼ぶ。分厚いファイルを抱えた少年は振り返り、こちらを見ると微かに笑みを浮かべた。……実は彼の笑顔というのは、結構レアモノだったりする。

「エドワード、来てたのか」

「ああ。これ返しに」

「早いな。もう読み終わったのか」

「ん、あんま参考にはならなかったからな」

そりゃ残念だ、なんて言いながら彼が手を差し出すので、エドワードは素直に本を手渡した。本棚の並びを完全に記憶している彼だ、任せたほうが余計な手間を増やさずに済むだろう。

「姫にはもう会ったのか?今日はアイツに会いに来たんだろ」

「……別に、本返しに来ただけだけど」

「バカ言うなよ。今日はバレンタインだぞ?お前がアイツからチョコ貰わないなんてこと、あるわけないだろ」

「……」

リオンの場合、からかってる様子が全く無いんだからタチが悪い。

「で、会ったのか?」

「あー、クライサなら入り口の辺りで、エックスフィート大尉を全力で追いかけてるのを見たけど。話しかけられる状況じゃなかったな」

「……まだやってたのか」

呆れた様子の彼に詳しく聞けば、今日がバレンタインデーだということを完全に忘れていたリオがうっかり仕事でやってきたのに悪魔の笑みを浮かべたクライサが甘い手作りチョコ(義理)を持って甘いもの嫌いの彼を追い回し始めて先程のあれに至る、と。
まぁリオの必死そうな顔とクライサの極上の笑顔が見えたので、そんなところだろうとは思ったが。

「でもま、そろそろだろ(大尉が捕まるのが)」

「ああ、そろそろだろうな(大尉が捕まるのが)」

じきにクライサも戻ってくるだろうからと、司令室へ向かうことを勧められる。それに頷くと、また微笑んだリオンは先に出口へと足を踏み出した。

「あ、リオン」

「うん?」

呼び止めた彼が振り返るのを待たず、エドワードはそちらへと歩み寄る。そして持っていたそれを、すれ違いざまにリオンへと手渡した。予想通り、リオンは手のひらに載せたそれに目を瞬く。

「…チョコ?」

「試作品だとかで、街で配ってたんだ。男女関係なく渡してるみたいだったし、結構勢いのある姉ちゃんだったからつい貰っちまって……その、リオン、チョコ嫌いじゃないよな!?」

「ああ、普通に好きだけど」

「じゃあ貰っとけ!疲れた時には甘いものって言うだろ」

「…まぁ、普通に疲れてるけど」

バレンタインとかそんなの関係ないから、だの、別に深い意味はない、だの。言い訳じみた言葉を重ねるエドワードに、苦笑したリオンは手を伸ばす。

「サンキュ。遠慮なく貰っとくよ」

そしてその金色の頭をポンポンと叩き、また出口へ向けて歩き出した。

「……おう」





男の友チョコってのも悪くないだろ?

(けど、俺に渡してよかったのか?)

(?)

(姫に逆チョコって手もあったろ)

(…………別に、疲れた顔した友達がいたから、渡したってだけだし)

(忘れてたんだろ)










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