(赤青/ゼロス)





月を映した水面がゆらゆら揺れる。昼間は底が透けて見える湖は、皆が寝静まる深夜にもなると、まるで大きな鏡にでもなったかのように夜空や地上の世界を映し出す。
縁に腰掛けたまま靴を脱ぎ、裸になった両足を下ろした。水面に爪先が触れる。冷たい。そのまま足首まで浸けて、ふぅと息を吐いた。

そういえば、ここのところ一人になる時間がほとんど無かった気がする。熱血漢のリーダーが率いるこのパーティーは、次から次へと厄介事ばかりに巻き込まれて、休んでいる暇などありはしない。

(……ま、その方が余計なこと考えなくて済むけど、な)

ぼんやりと見下ろす水面に映るのは自分自身。見慣れた赤色に舌打ちする。血の色。こんなものを褒める女共の気が知れない。
ああ、こんな色なんて。

(……俺、なんて)

広げた両手のひらを見下ろした。何の汚れも無いようで、どんなものよりも遥かに汚れて見えるそれ。……人殺しの、手。

『お前なんか』

両手の向こう側に見える水面に再び目を向けると、そこに自身の姿は無かった。代わりに現れたのは、赤に塗れた一人の女。背筋が凍った。

『お前なんか生まなければよかった』

自分の代わりに死んだ、母親の姿。死人の目。呼吸が止まる。
真っ白な景色。散った赤。覆い被さる身体から熱が急激に引いていく。狂ったように叫ぶ女の甲高い声。何もできない。動けない。息が で き な


ーーパシャン。


女の姿は歪み、やがて消えた。水面に残されたのは緩やかな波紋だけ。投げ入れられた小石が、引っ張られるようにして底に沈んでいった。

「なーにしてんのゼロスくん、こんなとこで」

赤い自身の背後に見つけた色に、全身から力が抜けた。拍子に強く吸い込み過ぎた空気に驚いて、思わず噎せてしまう。何やってんだ、と苦笑した少女の手を背に感じて、すぅ、と呼吸が楽になった。

「……っなんで…」

「あのねぇ…見張り役の片方のロイドが寝落ちて、もう一方は野営地から離れたとこでぼーっとしてるなんて状況で、オチオチ寝てられると思う?」

「う……す、すんませんでした…」

「暫くはリーガルが見ててくれるらしいから、アンタも少し休みなよ」

「へーい」

それだけで、さっさと仲間たちの元へ戻ればいいのに。

「ほら、早く立て」

「……へいへい」

「…なーにニヤニヤしてんの」

距離をとりながらも、じっとこちらを見つめて待っている。差し伸べられた手が、何より有り難くて

「俺さま、幸せ者だなーって」

ーー愛しかった。





013:波紋
だって放っとけないから





【H21/07/17】





index




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -