「ベルシオさん、色々お世話になりました」
「またいつか此処へ遊びに来てくれ。今よりずっと良くなっている筈だ」
町は、マグワールが役人に連行されたことで大騒ぎだ。動揺する皆にレマックは、マグワールが残した研究費や、これからのやり方について全員で話し合おうと提案しているらしい。これをきっかけに、新しい選択肢が広がるだろう。
「じゃあ、気をつけていけよ。いつかお前の探す物が見つかるよう、祈ってる」
「ああ、サンキュ」
アルフォンスはフレッチャーと、エドワードはラッセルと握手を交わし、笑い合った。
思えば、エドワードたちはお互い憎まれ口ばかりだった。だが、今はそれがなくなるのが少しばかり寂しい。
世界が夕焼け色に染まっていく中、二組のやり取りを見守っていたクライサたちは、互いに顔を見合わせて笑った。
「クライサ」
不意にラッセルに呼ばれ、そちらに顔を向ける。
持たされていたトランクをエドワードに返すと、彼はクライサの前まで歩み寄ってきた。
「ありがとな」
リオンも、と微笑まれ、彼もまた笑みを返す。
「なんでお礼言うの?あたしは別に何もしてないよ」
それに対し、クライサはしれっと言い放った。
素直じゃないんだから、と呆れたように溜め息をつくと、リオンはそこを離れエドワードたちのほうへと歩いていく。無表情のままのクライサと、苦笑しているラッセルが後に残った。
「アンタのこと、嫌いだった」
先に口を開いたのはクライサだった。
「最初に会った時は、なんでかわからなかったけど」
この町のことに…彼らのことに、首を突っ込んでいく毎に、その理由が分かってきた。
父の言葉に左右され、好きだった錬金術をあっさりやめた彼。
父のためだと言い訳して、悪いと知っていることに手を出した彼が
姉が、自分の世界の中心だった頃の
「あたしに、似てたから」
嫌いだった。
「ーーでも」
覚悟を決めた目。それを見た瞬間、彼を嫌う理由は無くなった。
「頑張りなよ。ここを、もっといい町にしてよね」
「ああ」
差し出した手。彼はそれに微笑みを浮かべ、握手を交わした。